第1章 この顔も欲しいです
気持ちのいい秋晴れ、一面のガラスに映る真っ青な空を一羽の鳥が横切る
こんな日に翔ぶのはさぞ気持ちがいいだろう、目の前の積み上げられた書類の山との対比に俺は小さく息を吐いた
「・・失礼・・します」
掠れた声が部屋に響くと、酷く疲労を浮かべた目良さんが追加の書類を運んでくる
俺と同量、いや俺の倍量は活字に目を通しているのだろう、そう思うと思わず同情の笑いが漏れた
「また貴方は・・私に相談も無しに・・」
「えーと、何の事です?」
思い当たるものが多くて、へらりと笑うと目良さんが眉を顰める
力なく差し出された紙の束には、昨日急遽修正させた箇所に赤い付箋が貼られていた
「ヒーロー活動における救護体制と、学校・公安間の連携についての意見交換」
「ええ、何か問題でも?」
不自然なところは無いはずだ、努めて涼しい顔をしながら目良さんに椅子を勧める
どんなに取り繕ったって絶対に見抜かれる、俺にとってこの人ほど居心地の良い人間は居ない
「公私混同は控えて下さいと前にも」
「今回の議題にも詳しいでしょう、適任では?」
「保健医をわざわざ公安まで呼ぶ必要無いでしょう」
渉外担当者以外を招集するのは煩雑な手続きが、しかも資料共有で済むような話をわざわざ、苦虫を潰したような表情に俺は静かに肩を揺らす
「笑ってる場合じゃない・・他にこんなにも急ぎの・・」
「未来ある若者たちの安全よりも大事なものが?」
「全く、貴方って人は・・!」
学校との連携は大事ですから、視線にほんの少しだけ力を込めると、全く信じていない表情を隠しもせずに目良さんが項垂れた
「・・では聞きますが」
「大体予想はつきます」
「・・なぜ今回の会議に、ベストジーニストを」
質問している割に、その目には微塵の疑問も浮かんでいない
火を見るより明らかだと既に確信している目が無遠慮に俺を責めている
「はは!答える必要も無さそうだ」
「念のため、伺いましょう」
「そうですねぇ・・」
目良さんの背後に広がる空に一筋の飛行機雲が伸びていく
彼女が見上げる空には今、何か翔んでいるだろうか