第9章 鍵を掛けておやすみ
宝石を散りばめたような夜景がゆっくりとブラインドに隠れていく、こんなにも名残惜しい夜は初めてだ
日付を跨ぐ電子音が小さく響いた部屋では、最後の攻防戦が繰り広げられていた
「だから私がソファで寝るって・・!」
「予想を裏切らないなぁもう」
完全に誘ってますよね?無自覚でその体勢になります?いくら何でも無理があり過ぎるでしょ、
目の前の光景にひたすら悶々として数分、そろそろ笑顔が引き攣り始める頃だ
「私もう寝るから・・!早くお部屋行って・・!」
強行突破にも程がある、俺が使うはずの就寝用ブランケットを奪った彼女がクッションを枕にソファに横たわって
縋るように素足が布に絡められるたびに響く衣擦れの音、胸元に手繰り寄せたブランケットが妙に妖艶な雰囲気を醸し出している
「貴女をこんな所に寝かせて、俺がベッドで熟睡できると思いますか」
いいから部屋使って下さい、何度目か分からないやりとりに顳顬が震え始めるのを感じる
「でもホークスは明日仕事で、私は休みで」
「それ何回も聞きました」
「だからちゃんと体を休めてほしいの・・!」
「心が休まらん、じゃあ一緒にベッドで寝ればよか」
「だ、だめに決まってるでしょ・・っ!」
いい加減そろそろ他の作戦を考えなくては、
彼女にとって本日の滞在目的は俺の休息、大義名分を得たとばかりに「ちゃんと休んでほしい」の一点張りだ
「ちょっとは逆の立場で考えて下さいよ、格好つかんやろ」
元No.2ヒーロー女性をソファで寝かせる、めちゃくちゃダサい見出しでしょ、勘弁して下さいよ、懇願するように手を合わせると彼女が思い切り吹き出した
「はい、笑ったんで俺の勝ちです」
「え、そんなルールな・・っ」
何て強情、思いのほか強く握られているブランケットはびくともしなくて俺は態とらしく溜息を吐いた
「・・じゃあ言いますけど」
「何言われてもここは譲らないよ!」
「・・リビングには鍵、無いですからね」
「鍵?」
駄目だ、全然ピンと来ていない、そんなの当たり前でしょうとでも言いたげに俺を見上げるあどけない顔、ほんの少しだけイレイザーの苦労が分かったような気がした