第9章 鍵を掛けておやすみ
男性用シャンプーの香り、ホテルのように真っ白なタオルは毎回クリーニングなのかもしれない
生活感が感じられない綺麗な脱衣場、磨かれた鏡を見つめると少し寂しい気持ちになった
「・・管理されるのには慣れてる、か」
歯ブラシも消耗品もすべて完璧に補充されている、畳まれたタオルが綺麗に積まれて
広げてみるとそれは大きなシルエットのTシャツ、ホークスのヒーローコスチュームを真似たデザインに笑い声が漏れそうになるのを必死に堪えながら袖を通す
そわそわと部屋の中を行ったり来たりしている彼がリビングの扉越しに見えて
くすくすと漏れ出た声に気付いたのか、洗い立ての食器がガシャンと落ちる音が聞こえた
「お風呂、お借りしました」
あの入浴剤すごい良い香りだったね、何となく照れ臭くて目線を落とすと、ソファに腰掛けた彼が顔を覆った指の隙間から私を見て深く息を吐いた
「ふ、服もありがとう・・可愛いねこれ」
「・・・」
「ジーニストのやつは持ってるんだけど・・っ」
ホークスの色合いも可愛い、下もありがとう、紐が付いてるから調節できて助かります、
ひたすらに言葉を繋ぎながら彼が口を開くのを待つ
どうして何も言ってくれないの、洋服だって素顔だって恥ずかしくてどうにかなりそうなのに、
一秒でも早くこの空気を終わらせたくて、私は遠慮なくソファに近づく
それでも何も言わない彼は膝を抱えるように顔を伏せて、腹が立った私は同じように腰を下ろし膝を抱えた
「なんで黙ってるの・・!」
「なんで近づいて来るんですか・・!」
「恥ずかしいのは私なのに、」
「直視できん、俺の、コス着て、ああもう」
首筋まで赤く染まっているのがちらりと見えて私までどんどん身体が熱くなる
お風呂で温まったばかりの肌がじわりと汗をかくのを感じて張り付いた髪を一つに結ぶと、彼が顔を覆ったまま天井を見上げた
「今、必死に、落ち着かせてるんで・・!」
「落ち着かせてる?」
「・・・心を、そう、心をです」
「ふふ、何その言い方」
顔を顰めた彼が深く深く呼吸をして、静かな部屋に換気扇の音だけが響く
可笑しくて肩を震わせると束ねた髪がさらりと垂れて、慣れないシャンプーの香りがした
「わ、私まで緊張してきちゃった」
「目良さんの顔を思い浮かべるといいですよ」
「・・やってみる」
