第9章 鍵を掛けておやすみ
「・・先に入ってくれるなら」
私も後でお借りしようかな、言いながらどんどん熱くなる頬を隠すように日用品を整理する
彼がにやりと笑う気配、そもそも彼氏でもない男性の部屋で私は何をやっているのだろう、
「・・・絶対、怒られる」
「へえ、この状況で浮かぶ顔はイレイザーですか」
あの人は貴女の何なんです?、聞こえないよう小さく呟いたはずが、というか名前など出していないのに、彼にはなぜだか分かってしまったらしい
慌てて顔を上げた私を睨む金色の目が冷たい熱を宿している
「何って、」
「ただの保護者には見えないなぁ」
「親、友・・みたいな・・?」
「だから俺に聞かんで下さいって」
次あの人の事思い出したら、俺もう少し強引にいかせてもらいますよ、私の手から桃色の花を奪った彼がひどく不機嫌そうに暗い廊下へと消えていく
いつも安心させてくれる相澤くんの存在、学生時代には想い合っていたこともある、
毎日顔を合わすくされ縁、心配で放っておけない妹のような感じ、相澤くんが私をどう思っているかは分からないけれど、私にとって彼は紛れもなく大切な人だ
それなのに、
———あの人は貴女の何なんです
冷たくて熱い瞳に見つめられたあの時、私の頭に真っ先に浮かんだのは、
何でもないの、誤解しないで、私には貴方だけ、
そんな風に必死に釈明したいと願う焦りにも似た衝動
住む世界が違いすぎる、どれだけ笑顔を見せてくれたって、その明るい声の裏側は決して見せてくれない人だった
そんな貴方の本当の姿に少し近づいてしまったこの夜が、私を甘く苦しめていく
「・・めぐさん、怒ってます?」
帰りたくなっちゃいました?、髪を拭きながらしょんぼりと現れた彼が捨て犬のように悲しい目を伏せて、どうしようもなく胸が騒いで、涙が出そうなほど痛い
「早いね、ちゃんとお湯に浸かった?」
「もう居なくなってるかと思って」
数秒は一応、バツが悪そうに落とされた目線が愛しくて呆れた笑みを溢すと、彼がほっとしたように微笑んだ
「風邪ひいちゃうよ、髪乾かしておいで」
バスルームから戻った彼にドライヤーを手渡されて、ずるい私はやっぱり断れない
数分後には自分も同じ香りを纏っているのだろうか、柔らかい髪に触れると煩くなった胸の音は、強い風でも消えてはくれなかった