第9章 鍵を掛けておやすみ
「俺が夜這いしても文句言わないならいいですよ」
「よ、よば・・っ!?」
「身の安全が保証できませんけど、いいですね?」
念を押すように顔を近付けると一瞬でその肌が上気して、俺はこの長い戦いの勝利を確信する
「そんなのホークス次第でしょう・・!?」
「だから言ってるんです、自信無いんで」
おろおろと目を泳がせたその隙にブランケットを思い切り引っ張ると、彼女が小さく悲鳴を上げた
「貴女が寝てる間に、こうやって」
こうするかも、ギシっと音を立ててソファに膝を乗せる、覆い被さるように身体を近付けると後ずさった彼女の髪がクッションの上に広がった
「もしかして、それを期待してます?」
「し、してない・・っ」
「んじゃ、ちゃんと鍵掛けて寝て下さいね」
にっこり笑うと彼女が悔しそうに赤い顔を顰める、健康問題となるとこんなに強情なのかと新たな発見に笑いが漏れて
しぶしぶソファから下りた彼女が、俺を見上げて申し訳なさそうに呟いた
「・・埋め合せで来たのに」
しゅんと肩を落とす彼女への愛しさ、と同時に込み上げる哀しさ
甘い応酬を純粋に楽しんでいたのは俺だけ、急に現実を突き付けられたようで我ながら余裕の無い声が出た
「・・あんま埋め合せって言わんで下さい」
「え・・?」
「貴女が責任感でここに居ると思いたくない」
触れてしまわないようにと強く握った拳、この甘い夜の終わりがどうしようもなく俺を焦らせているから
鍵の掛かった扉の向こうへなんて行かせたくない、朝までずっと二人で———
「・・俺と一緒に居たいから、」
居てくれてるんだと思いたい、本当は決め台詞のように自信に満ちた顔で言いたかったその言葉が、縋るような願うような情けない声になって出ていく
「・・私、今日ここに来られてよかったよ」
「めぐさん・・」
「素敵な夜にしてくれて、ありがとう」
おやすみなさい、照れ臭そうに呟いた彼女は一歩近付くと俺の胸にこつんと額を預けた
「ひぃ・・!」
「私から触るのは、いいの」
甘えるようにすりすりと頬擦りした彼女が、お茶目な微笑みを浮かべて寝室へと駆けていく
「だから・・、何ですかその理屈・・!」
ビリビリと熱く痺れた身体、心臓の爆音だけが響く真っ白な頭の中に、カチャリと内鍵の掛かる音がした