第8章 ショコラ・エピセ
緩やかなカーブから吸い込まれるように入った地下駐車場、オフィスビルさながらの立派な作りにくらくらと目眩がする
私のアパートとは大違い、当然だ、ホークスだもん、考えてみれば当たり前だけれど、彼は元No.2ヒーローであり公安委員会の会長なのだ
「・・やっぱり、無理、かも」
こんなに住む世界が違うんだね、情けなく呟いた小さな声に彼が鋭く私を睨む
「埋め合わせは嘘ですか」
「だって・・っ」
「手料理食べたいです」
俺とめぐさんの仲でしょう、寂しい事言わんで下さいよ、拗ねたように声を尖らせた彼は車を停めると真っ先に私のシートベルトを外した
「でもよく考えたら、男性の家に上が・・」
「指一本触れません」
貴女が嫌がる事は絶対にしないと約束します、
懇願するように私を覗き込んだその目が切なく揺れる
「一緒に居てくれるだけでいい」
それだけで俺、元気になれます、真っ直ぐな目が射抜くように私を捕らえて、車を降りた彼が外から助手席のドアを開けた
重厚な作りのエントランスを通り抜け、セキュリティ万全のエレベーターで到着した最上階、身分不相応な場所に萎縮する私を不機嫌そうな彼が見つめる
「貴女がそんなに落ち着かんなら、引っ越します」
「え、何言って・・っ」
「俺べつに高級思考じゃないですよ」
空が近いのが気に入ってるだけです、心外だと言うように歪んだ唇、指紋認証で開いたドアの奥に都会の夜景が広がって私は息を呑んだ
「すごい・・、綺麗・・」
感動で言葉を失う私にホークスが少しだけ機嫌を直して、暗いままのリビングから広がる景色は宝石を散りばめたようにきらきらと輝いていた
「高い所はいいですよ、物事を俯瞰して見られる」
寂しそうに呟いた彼の横顔にどきりと胸が鳴って、それを誤魔化すように私は袋の中の食材をキッチンに広げる
買い物袋の横に置かれた小さな紙袋を見つけて覗き込んだ彼が、眉を顰めて苦い顔をした
「・・また入浴剤ですか、エロ刑事め」
「ち、違うよ、これは真さんが・・!」
「マコトさん?誰ですその男」
殺意にも似た彼の雰囲気に私は一瞬言葉を無くす、そう言えばまだ肝心なことを何一つ話していなかった、ぱちぱちと瞬きを繰り返した私をホークスが思い切り睨んだ