第5章 貴女はそういう人だから
「本当にごめんね、少し遅れそうです」
本日最後の会議が終わりやっと一人になった会長室、油断すると上がってしまう口角を手で無理やり押さえる
仕事が立て込んでいるのだろうか、もちろん大丈夫です、いくらでも遅れて来てください、
泣き顔のスタンプと共に送られてきた謝罪の文面すら、今晩の約束が現実なのだと俺に実感させた
「駅で体調不良の女性を見つけて、」
かなり辛そうだから、今タクシーでお家まで送ってるの、できるだけ早く行くからね、本当にごめんね、立て続けに届いたメッセージ、仕事が忙しいものと思い込んでいた俺は驚きと心配に眉を顰める
女性とは書いてあるものの、あまりに無防備すぎやしないか、彼女の事だ、きっと放っておけなかったのだろう
「めぐさんらしい理由ですけど、本当に大丈夫ですか?」
その人の家どの辺なんです?迎えに行きましょうか、タクシーを走らせる距離と言うことはそこまで離れていないのだろうか
「ううん、大丈夫!〇〇駅の近くらしいから、そんなに遠くないよ」
「くれぐれも気をつけて下さいね、何かあったら連絡して下さい」
待合せ予定の駅から数駅、あの大通りを走れば十数分で着く距離だ
ほっと安堵の溜息が漏れる、人助けを終えた彼女を思い切り褒めたたえる準備をしておこう
壁際に置かれたコート掛け、ぶら下がったネクタイの中から幾つかを手に取る
今日の彼女はどんな服装だろうか、どの色が彼女の隣に相応しいだろうか、想像するとじわりと広がる甘い期待
鏡の前でにやつきながら決めたその色、明日の予定に目を通しながら、滑らかなその手触りを楽しんだ
「・・聞いていますか、ホークス」
「いや、全く」
「・・・・はぁ」
いくら挙動が静かだからと言って、目良さんが入って来た事にも気が付かないなんて我ながら重症だ
「目良さん、いま俺、何も頭に入らん」
「そのようですね」
花でも買って行こうか、引かれてしまうだろうか、帰りは送らせてくれるだろうか、次の約束は取り付けられるだろうか、
手元に視線を落としても書面の上の情報は何ひとつ脳へと届いていなくて、俺を見つめる目良さんが一瞬、心底呆れたように微笑んだ