第3章 初めては全部
「あ!相澤くん、おつかれさま」
日誌を書いていた彼女が顔を上げる、相変わらずの無防備この上ない微笑みに肩の力が抜けていく
「珍しいね、休憩に来たの?」
「アイツと一緒にするな、不快だ」
アイツって?、きょとんと俺を見上げる瞳を思い切り睨み会議資料を手渡すと、彼女が嬉しそうに笑った
「取りに行かなきゃと思ってたの、ありがとう」
「ん」
椅子に腰掛けると何も聞かずに彼女がシンクの前に立つ
ケトルに水が注がれる音を聞きながら、結局休憩するんじゃねぇかと自身を責めた
「はい、どうぞ」
塚内さんから貰った高級茶葉だよ、戯けて笑うその顔にやれやれと溜息が漏れる
「コーヒーが飲みたい」
「紅茶派なの知ってるでしょ、文句言わないで」
紅茶の味の違いなど俺に分かるはずがない、特に癖の無いように思えるスタンダードな香りがあの人らしいと言えばそうかもしれないが
「塚内さんと食事したんだったか」
「うん、とっても楽しかったよ」
ホークスともばったり会ってね、誰との何を思い出したのか一瞬染まった目元、それに気付かないふりをして俺は味のしない液体を口に運んだ
「めぐさん居ますー?」
叩く音が数回響くと、開いた扉の間から噂をすればの二人が顔を出す
このパターンが今後増えるのか、来るなら来ればいいなんて言わずに策を講じるべきだったと今更悔やまれる
「あら、今日はお客さんがいっぱい」
「本当は一人で伺いたかったんですが、」
「こっちの台詞ですソレ」
相変わらずにこやかな二人の間に漂う殺伐とした空気、頼むから他所でやってくれ、俺のそんな願いも虚しく彼女が追加のカップをセットした
「ちょうど良かった、塚内さんから頂いた茶葉なんです」
とってもいい香り、彼女が幸せそうに目尻を下げると塚内さんが分かりやすくその姿に見惚れて
すかさず鼻先を寄せたホークスが皮肉な笑みを浮かべる
「塚内さんらしい、当たり障りのない香り」
本当はもっと華やかなやつが好きでしょう?、覗き込んだホークスが騒がしい声を響かせる
「ふふ、啓悟くんはまだお子ちゃまだなぁ」
「え、っ、!?!?今けい・・っ」
柄にもなく慌てるホークスに構わず、彼女は湯気の出るケトルを上機嫌に持ち上げて
塚内さんは一瞬だけ俺の方を見ると、悩ましげな溜息を部屋に響かせた