第3章 初めては全部
「・・めんどくせぇ」
「何がです?」
「別に」
無言で手元の資料に視線を落とすと、意味ありげな視線を寄越したホークスが俺を捉える
「なるほど、さすがの余裕だ」
「何が言いたい」
「さあ?」
腹の中が見えない言い方、こういう無駄な時間が俺は一番嫌いだ、嫌悪を隠さず表情に出すとホークスはますます笑みを深くした
「俺たち二人とも、今後は雄英に来る機会が増えるって言ってるんです」
「来るなら来ればいいだろ」
「めぐさんお昼どこで食べてます?」
「あ゛?」
唸るように発した声に目の前の男がにやりと口角を上げる、厄介な奴に目を付けられたもんだと同情と苛立ちを彼女に向けた
「ご苦労なこった」
「会える理由が増えるのは、純粋に嬉しいですから」
「・・理由が無いと来られないあんたらと」
俺を一緒にしてくれるなよ、容赦なく殺意を乗せて二人を一瞥するとホークスが呆れたように肩を竦めた
「なら最初からその顔しといて下さいよ」
おー怖、降参したように両手を上げたホークスがちらりと塚内さんを見遣る
画面に視線を落としたままのその表情、考えを巡らせているのが丸分かりだ
「高校時代からの付き合いでしたっけ」
「ああ」
「しかも理由が無くても会える、強いなぁ」
「・・ついでにもう一つ、教えてやろうか」
我ながら大人げない、合理性もない、同じ土俵に立ってどうする、これから滑り出る言葉が自分の首を絞めると分かっているのに
「なんです?」
「・・あいつの初めては、全部俺だよ」
凍り付いたその表情に俺は低く笑いを漏らして、衝撃に顔をあげた塚内さんに軽く会釈をして会議室を出る
奴らにはさぞ有利に映ったに違いない、一度終わっているからこそ踏み出せないなんて微塵も想像しないだろうな
自分からは手を伸ばさないくせに、他人があいつに手を伸ばすと腹が立つ
「・・能天気なお前らと、一緒にしてくれるな」
だからただ、いつも彼女の側にいる
心に触れる事はできなくても、泣いている時に抱きしめられる距離に
いつか彼女に大事な奴が出来て、この距離を失う日が来たとしたら———
雨粒の当たる音、降り始めたそれが廊下の窓に幾つもの道筋を描いて
低気圧になると鈍く痛む右目を軽く押さえながら、俺はゆっくりと扉に手を掛けた