第2章 流し込んで消して
「じゃあ、お言葉に甘えるね」
申し訳無さそうに眉を下げた彼女が俺の横に一歩踏み出して、くるりと塚内さんへ向き直ると甘い花が香った
「塚内さん、今日はありがとうございました」
「・・っ」
「とーっても楽しかったです」
次は私がお店選びますね、期待しててください、楽しそうに笑いかけたその顔に眉間に皺が寄りそうになるのを制して俺は笑顔を作る
「・・私が、送るつもりでした」
「めぐさん家までの道、頭に入ってるんで」
俺の方が気を遣わんでしょうから、くるくると車の鍵を回すと塚内さんの顳顬がぴくりと動いた
「塚内さん、次は寒い冬にお鍋でも食べましょうね」
同じ鍋を突くなんて絶対させん、無邪気な横顔に目を細めながら俺は内心溜息を吐く
何かを言いかけた塚内さんが視線を落とした一瞬、考えを改めたように真っ直ぐに彼女を見下ろした
「・・そんなに待てません」
「え、?」
大きく目を開いた彼女が言葉を無くして、不本意そうに険しい顔をした塚内さんが少しだけ瞳を揺らす
「来週までに、お店選びお願いします」
「・・っ、」
「大当たり、期待していますよ」
返事をさせてはダメだ、二人の間に漂う甘い空気を掻き消す語彙を頭の中で組み立てる
俺が思っていたよりもずっと、目の前の男は彼女に本気らしい
「・・わか、」
「めぐさん、車の中で何か飲みます?」
「え、っ?」
途中でドライブスルー寄りましょうか、言いながらちゃりちゃりと鍵の音を響かせると彼女が信じられないと言うように俺の手を凝視した
「その、付いてるやつ・・!」
「あ、バレました?さすが、早いなぁ」
「ジーニストの・・!限定の・・!」
こんなもん使うなんて情けなか、崩れていくプライドに引き攣りそうになる顔を何とか繕って、塚内さんに笑いかける
「彼女ジーニストの大ファンなんです、聞きました?」
「ホークス・・!」
「塚内さんも、覚えておいた方がいいですよ」
見せて見せて、ホークスお願い、言いながら飛び跳ねる彼女が決してそれに届かないように、俺は涼しい顔で右手を高く掲げた