第2章 流し込んで消して
ウインカーの音がかちかちと車内に響く、点滅する青に足を早めた歩行者、幼子の手を引く母親を安心させるように会釈をした
———諦めるなら早い方がいいでしょ?
刑事として長年培ってきた勘や推測、そんな物を働かせる隙も与えられなかった、清々しいほどの告白と牽制を思い出し苦い笑いが溢れる
「・・まったく、敵わないな」
そう呟いては見たものの、彼の挑発が自身にもたらした新たな気づきを無視できない自分がいる
今夜の食事だって、彼女にとっては特別な意味などないのだろう
よろしければ一度ぜひ、なんとも弱い理由でこじ付けた約束
私もゆっくりお話してみたかったんです、少し照れたように俺を見上げた澄んだ瞳を思い浮かべて、助手席のシートに置いた小さな紙袋を一瞥した
淡いこの気持ちの輪郭を、今夜掴めるだろうか
車を停めエンジンを切ると静かに瞼を閉じる、
通りの向かいを歩く人影、目的地を確認するように辺りを見回す彼女の姿に胸が落ち着かない音を立てた
「薬師さん」
「あ、塚内さん!」
場所が分かりにくくてすみません、こっちです、大通りを歩きながら俺は斜め前方を指さす
ほっとしたように微笑んだ彼女がスマホを鞄に仕舞って、何気ないそんな仕草で信頼を感じてしまう自分に呆れた
「わぁ、とても素敵なお店ですね」
「実は私も初めてでして・・」
当然の役割だと店選びを請け負ったはいいものの、普段訪れる機会のない雰囲気の店に若干の不安が芽生える
「口コミは良かったんですが・・」
予防線を張るように情けなく呟くと、無邪気に声を立てて笑った彼女が口元を手で押さえる
上品な色に塗られた爪の先は果たして今夜のためなのか、淡い期待が年甲斐もなく芽吹くのに耐えられなくて俺は視線を落とした
「ふふ、お手間をおかけしちゃいましたね」
「いや、そう言う意味では・・!」
「とーっても期待しちゃってます」
お茶目に微笑んだ彼女が頬を緩ませてコートを脱ぐ
安心してください、次回から私が選びますから、揶揄うように発されたその言葉に鼓動がこれ以上無いくらいに速まって
「早く入りましょう?」
可笑しそうに俺を見上げたその表情、額に汗が浮かぶのを感じながら、俺は硝子戸を引く手に思い切り力を込めた