第16章 雄英文化祭編
そのやり取りを聞いていた上鳴は、口元を押さえながら肩を震わせる。
――出た。爆豪の嫉妬。
もちろん、そんなことを口にしたら、次の瞬間には爆豪の拳が飛んでくるに違いない。
上鳴は賢明にも黙っておくことにした。
その代わり、隣にいた瀬呂の袖を引っ張る。
「なあ、見た?」
「見た見た。あいつ、わかりやすすぎだろ」
瀬呂も声を潜め、にやりと笑った。
「おい、そこ。聞こえてんぞ」
爆豪の低い声が飛んできた。
「「すみませんでした」」
二人は即座に背筋を伸ばした。
その一方で、八百万は真剣な顔でおもちを見つめていた。
「……あのように安心しきった表情をなさるのですね」
「八百万、なんか感心するところが違くない?」
耳郎が小声で突っ込む。
「いえ、普段から大変お美しい方だとは思っていましたけれど……。眠っているときまで、これほど整ったお顔立ちだなんて」
「お嬢様の美的感覚でも、やっぱりすごいんだ?」
芦戸が尋ねると、八百万は迷いなく頷いた。
「ええ。ですが、何よりも……あの表情が素敵ですわ。飾らず、気負わず、心から安心していらっしゃるように見えますもの」
「……それは、確かに」
障子が静かに同意した。
「彼女は普段、周囲をよく見ている。自分が見られる側になることには、あまり頓着していないようだが……」
「つまり、寝顔を見られていることには気づいていない、と?」
飯田が眼鏡を押し上げながら、妙に真面目な声で尋ねた。
「そういうことだろうな」
「な、なるほど……!」
飯田は何か重要な事実を理解したように頷いた。
「しかし、皆さん!本人の許可なく寝顔を凝視するのは、いささか礼儀に欠けるのではないでしょうか!」
「いや、飯田くんもめっちゃ見てるじゃん」
耳郎の鋭い指摘に、飯田はぴたりと固まった。
「……そ、それは」
「ほら、声が大きいわよ」
口元に人差し指を当てたのは、意外にも常闇だった。
「静寂を乱すな。今、この場には安らぎが満ちている」
「常闇くん、なんか詩的!」
芦戸が感心したように呟く。
「フッ……闇の中でこそ、光はその美しさを増すものだ」
「いや、教室の中だからね?」
瀬呂の突っ込みに、常闇は何も答えなかった。