第16章 雄英文化祭編
「でもさ、エリちゃん。どうしてあのお姉さんのこと、そんなに好きなの?」
エリは、少し考え込んだ。
それから、おもちの姿を見つめながら、小さく答えた。
「……優しいの」
「うんうん!」
「……あったかくて、きれいで……」
「うん?」
「……ずっと、一緒にいたいの」
通形は、再び首を傾げた。
どうやら、ただ容姿が好みという話ではなさそうだった。
けれど、それ以上問い詰めることもできず、彼はエリの手を引きながら、再びA組のロビーへと戻ることにした。
そこでは、文化祭に向けたバンド練習が再開されようとしていた。
「じゃあ、もう一回、頭から合わせるよ!」
耳郎が声をかけ、上鳴がギターを構える。
八百万はキーボードの前に座り、常闇も準備を整えていた。
爆豪はドラムスティックを指先で回しながら、練習の開始を待っている。
その傍らで、おもちはエリの手を優しく握っていた。
というより、正確には。
エリが、彼女の手を離そうとしなかったのだ。
「……エリちゃん、私、ちょっとだけ練習に戻るね?」
おもちがそっと声をかける。
すると、エリの指先にきゅっと力がこもった。
「…………」
「……?」
「……だめ?」
上目遣いで見つめられ、おもちは思わず目を瞬かせた。
その顔は、先ほどまでの不安そうな表情とは少し違っていた。
離れたくない。
もう少しだけ、一緒にいたい。
そんな気持ちが、小さな瞳にありありと浮かんでいる。
「……っ」
おもちは、思わず胸を押さえたくなった。
なんて可愛いのだろう。
普段は、どれほど厳しい任務でも冷静に判断し、相手の心理を読み、最善の行動を選び取る自分が。
この小さな女の子の前では、どうにも調子が狂ってしまう。
「……だめじゃないよ」
そう答えると、エリの顔がぱっと明るくなった。
「ほんとう?」
「うん。でも、少しだけ待っていてくれる?」
「……うん!」
返事をしたエリは、再び彼女の手をぎゅっと握った。
……どうやら、待つ間も離れるつもりはないらしい。
その様子を見ていた緑谷は、苦笑いを浮かべた。
「エリちゃん、すっかり懐いちゃったね」
「そうなんだよ!」
通形は不思議そうに頷いた。