第16章 雄英文化祭編
「僕、こんなに誰かにくっついているエリちゃん、初めて見たかもしれないなぁ。あの子、何か特別なことをしたのな?」
「えっ!?」
緑谷の肩が、ぴくりと跳ねた。
まずい。
それは、非常にまずい質問だった。
エリがおもちを慕う理由を、通形に詳しく説明するわけにはいかない。
彼女がステラとして死穢八斎會に潜入していたことも。
エリを救うために、危険を冒していたことも。
今のおもちが、当時とは別の立場で雄英にいることも。
何もかも、簡単には話せない。
「え、ええっと……!」
緑谷は必死に頭を回転させた。
そして、苦し紛れに口を開く。
「……こ、子どもって、美人が好きだから……!」
「…………」
通形が固まった。
「…………え?」
「い、いや!もちろん、それだけじゃないと思いますけど!おもちさん、優しいですし、すごく綺麗ですし!だから、きっと、その……!」
言いながら、自分でも無理があると分かっていた。
そもそも、エリはそんな単純な理由で彼女に懐いているわけではない。
緑谷自身、それを誰よりも理解していた。
けれど、ほかにどう説明すればいいのか分からなかったのだ。
通形は、ゆっくりとおもちへ視線を向けた。
彼女は、エリに手を握られたまま、困ったように微笑んでいる。
「……確かに、すごく綺麗なお姉さんだもんねぇ」
「で、ですよね!」
「でも、エリちゃんは普段、こんなに積極的じゃないんだけどなぁ……」
「そ、そうなんですか?」
「うん!」
通形は明るく頷いたものの、まだ少し不思議そうだった。
緑谷は、心の中で深く息を吐いた。
――ごめん、エリちゃん。ごめん、おもちさん。
苦しい言い訳だという自覚は、十分にあった。
そのとき、おもちがふと顔を上げた。
「……あの、みんな」
彼女はエリの手を握ったまま、バンド練習をしているクラスメイトたちへ声をかけた。
「少しだけ、練習を抜けてもいいかな?」
「はぁ?」
ドラムスティックを持った爆豪が顔を上げる。
おもちは、隣にいるエリへ視線を落とした。
「エリちゃんが、せっかく来てくれたから。少しだけ、学内を案内してあげたいなって」
そう言って、彼女はエリの頭を優しく撫でた。
エリは、嬉しそうに彼女を見上げている。