第16章 雄英文化祭編
心の底から楽しいと思えることを見つけたい。誰かと一緒に過ごす時間を、怖がらずに楽しみたい。そんな当たり前のことを、彼女はまだ知らないだけなのかもしれない。
――この子に、笑ってほしい。
心からそう思った。
もう二度と、何かを恐れて自分の気持ちを押し殺すことがないように。
楽しいときには楽しいと、嬉しいときには嬉しいと、素直に表現できるようになってほしい。
そのために、自分にできることはないだろうか。
緑谷はふと、あることを思い出した。
「……そうだ!」
思わず声を上げると、壊理とミリオが同時にこちらを見た。
「壊理ちゃん。今度、雄英高校で文化祭があるんだ」
「文化祭……?」
「うん!クラスごとに出し物をしたり、音楽やダンスを披露したりするんだよ。みんなで準備して、来てくれた人に楽しんでもらうためのお祭りなんだ」
緑谷は少し身を乗り出した。
「もしよかったら、壊理ちゃんも来てみない?」
壊理の瞳が、かすかに揺れた。
「……わたしも、行っていいの?」
「もちろん!……って、僕が勝手に決められることじゃないんだけど」
緑谷は慌てて言い直した。
今回の文化祭は、これまでのように一般の来場者を招くものではない。度重なるヴィランの襲撃を受けたこともあり、開催は雄英の敷地内に限られ、参加者についても慎重な判断が必要になるはずだ。
それでも、壊理にとって何かのきっかけになるのなら。
「相澤先生に、聞いてみるよ。壊理ちゃんが来られるように、相談してみたいんだ」
「……本当に?」
「うん!」
緑谷が力強く頷くと、ミリオも嬉しそうに笑った。
「いいじゃないか!壊理ちゃん、きっと楽しいぞ!」
そのとき、病室の入り口から静かな声がした。
「何が楽しいんだ?」
振り返ると、引率として同行していた相澤が立っていた。
「相澤先生!」
「緑谷。病院で大声を出すな」
「す、すみません!」
反射的に背筋を伸ばす緑谷を見て、ミリオが苦笑する。
相澤は二人の手元にある果物と、壊理の様子を順番に見た。
「それで、何の話だ」
緑谷は先ほどの提案を説明した。