第16章 雄英文化祭編
週末の病院は、平日よりもどこか静かだった。
緑谷出久は通形ミリオと並んで、壊理が入院している病室へと向かっていた。二人の手には、見舞いの品として用意した果物の詰め合わせがある。
「壊理ちゃん、喜んでくれるといいですね」
「うん!せっかくだから、いっぱい話して笑ってもらおう!」
いつもどおり明るいミリオの声に、緑谷も小さく頷いた。
けれど、病室の扉を開けた瞬間、二人の表情は自然と和らいだ。
ベッドの上に座っていた壊理は、こちらに気づくと、ぎこちなく頭を下げた。
「こんにちは……」
「こんにちは、壊理ちゃん!今日はお見舞いに来たよ!」
ミリオがいつもの調子で手を振る。緑谷も果物の詰め合わせを掲げてみせた。
「これ、お見舞い!エリちゃんの好きな果物は…桃!だよね??」
「……りんごがすき」
「外れちゃったかぁ!りんごが好きなんだね」
「うん、ありがとう」
壊理は丁寧にお礼を言った。
けれど、その顔に笑顔はなかった。
以前よりも表情は少しずつ豊かになってきた。それでも、彼女の心には、まだ癒えきらない傷が深く残っている。
治崎にされたこと。
逃げられなかったこと。
誰かを傷つけてしまうのではないかという恐怖。
そして、自分が笑っていいのかさえ、わからなくなってしまったこと。
緑谷はベッドの傍らに腰を下ろし、壊理の顔をそっと覗き込んだ。
「壊理ちゃん、最近はどう?何か困っていることとか、気になっていることはない?」
問いかけると、壊理はしばらく俯いていた。
小さな指先が、病院のシーツをきゅっと握る。
「……あのね」
「うん」
「わたし……笑顔って、どうしたらできるのか、わからないの」
その言葉に、緑谷は息を呑んだ。
「みんな、笑っているでしょう?ミリオさんも、緑谷さんも……」
壊理は二人を見上げた。
「でも、わたしは……どうしたら、笑えるのかな」
緑谷はすぐに言葉を返せなかった。
笑顔にならなくてもいい。無理に笑う必要なんてない。
そう伝えることはできる。
けれど、それだけでは、彼女が本当に望んでいるものには届かない気がした。
壊理はきっと、笑いたくないわけではないのだ。