【WINDBREAKER】風鈴高校の紅一点🎐𓂃𓈒𓂂
第1章 出会い
蘇枋「少し落ち着いたかな」
耳元で囁かれた低く穏やかな声。蘇枋の腕の中に閉じ込められてから
どのくらいの時間が経っただろうか。 数秒か、あるいは数分か。
彼の体温と布地越しに伝わる一定のリズムの鼓動を感じているうちに、あれほど激しかった身体の震えはいつの間にか凪いでいた。
「……はい」
消え入りそうな声で答えると、はようやく現実の輪郭を取り戻し始めた。安心したから震えが止まったというのと嘘ではない。しかし、どちらかと言えば "蘇枋に抱きしめられている"という事態に脳がフリーズしら恐怖がどこかへ吹き飛んでしまったという方が正しい。
顔を上げると、至近距離に彼の整った顔立ち。陶器のように白く、一切の荒れを知らない肌。影を落とすほどに長く、繊細な睫毛。女性の自分から見ても羨ましくなるほどの美しさに思わず見惚れてしまいそうになる。
蘇枋「よかった…」
蘇枋は心底安堵したように目を細めると、の頬を指先でスッとなぞり ゆっくりと腕を解いて離れていった。その名残惜しそうな余韻すら感じさせる手つきに、また別の意味で心臓が騒ぎ出す。
けれど、そんな甘い空気を一瞬でぶち壊したのは 限界寸前の楡井の叫び声だった。
楡井「ちょっと!何やってくれてんですかッ!もうこれ、完全にドンパチするやつじゃないですか!!」
蘇枋「まぁまぁ、落ち着いて。なんか俺、出る幕を逃しちゃったけど。あの二人を見てると、出ないで正解だったかなって思うよ」
蘇枋がいつもの飄々とした調子で肩をすくめる。その視線の先では、桜と杉下が依然として不機嫌そうに佇んでいた。
「…………チッ」
不意に聞こえた鈍い音。その音の先へ視線を向けると、柊が苦虫を噛み潰したような顔で凄まじい勢いで胃薬を流し込んでいた。
(めちゃくちゃ胃薬飲んでる!!)
その必死な様子に 事の重大さが改めて身に染みる。けれど、柊は空になった薬の袋を握りつぶすと低く 重厚な声を響かせた。
柊「なっちまったもんは仕方ねぇ。それに……」
彼は一度言葉を切り どこか悔いるように視線を落とした。
柊「俺が最初に動くべきだった。すまん」
四天王の一人である彼が、新入生の失態を責めるのではなく己の責任として引き受ける。その背中に、風鈴高校を守る者の矜持を見た気がした。