【WINDBREAKER】風鈴高校の紅一点🎐𓂃𓈒𓂂
第1章 出会い
目の前で繰り広げられる 二人の激しい衝突。肉体がぶつかり合う鈍い音、荒い呼吸、飛び散る汗。それらを見つめているうちに、意識は現実から乖離し、深い闇へと沈んでいった。
ーー思い出したくない過去。
蓋をして、鍵をかけ、誰にも言えないまま喉元までせり上がってくる記憶。恥ずかしくて、惨めで、悔しかったあの日。誰にも分かってもらえない。誰にも分かってほしくない痛みが濁流のように脳裏を駆け巡る。
一度溢れ出した負の感情は止まることを知らず、彼女の指先を、膝を、身体のすべてを小刻みに震わせた。
蘇枋「ちゃん?」
低く穏やかな声が 膜を張ったような意識を貫いた。ハッとして顔を上げると、いつの間にか戦いから視線を外し、を覗き込んでいる蘇枋の姿があった。
蘇枋「気分悪い?」
「いえ……大丈夫です。」
震える声を必死に抑えて答える。けれど、彼は全てをを見透かしたような眼差しを崩さない。
蘇枋「恐い顔してる。」
彼方「すみません…」
無意識に自分を守るため あるいは自分を呪うための表情をしていたのかもしれない。慌てて取り繕おうとしたに、蘇枋は少しだけ眉を下げた。
蘇枋「何も悪くないのに謝るの、癖なのかな?」
「…」
蘇枋「少なくとも、俺には謝らないで?」
蘇枋は繋いでいた手に力を込め の震えを止めるように
そして自身の体温を分け与えるように優しく握りしめた。
蘇枋「君は、何も悪くない」
その一言が、乾いた砂に染み込む水のように 心に深く浸透していく。
蘇枋隼飛という人は、本当に不思議な人だ。僅かな異変を、呼吸の乱れを瞬時に察知してしまう。過去を詮索するわけでも 同情を寄せるわけでもない。ただ、何も言わずに隣にいて、暗い暗い心の底に沈みかけていたを光のある場所へと掬い上げてくれる。
「蘇枋君は、不思議な人ですね」
蘇枋「うん。よく言われるよ」
そう言って慈しむようにの頬を指先で一撫でした。眼帯のない左の瞳は、どこまでも柔らかく そして射し込む春の陽だまりのように温かかった。止まらなかった震えが、いつの間にか収まり穏やかな空気に包まれた。ようやく、今の自分が「ここ」にいることを自覚し、深く息を吐き出した。