第6章 歪を彩る
成恢の爪一枚、一枚の上に鮮やかな深紅が乗せられていく。
ぽってりと厚めに盛り付けるようなそれが一層、血の雫を思わせた。
シキは歌うような弾んだ息遣いで、爪の根元から先端へと紅を薄く押し広げていく。
すっかり慣れた手付きに淀みはない。
器用なものだと感心すら覚えられるものだった。
……この爪紅を塗る行為もまた初めの頃は、見るに堪えぬほど拙かったというのに。
そもそも爪紅など、自分にも他人にも塗ったことなどない女だ。
慣れている訳でも、元から手先が器用な訳でもなかった為に繰り返された失敗はひどいものであった。
それこそ、褒美として与えてやった時間を取り上げてしまいたい程度には、ほとほと嫌気が差していた。
爪どころか指先を朱でベタベタにしていた行為は、"塗る"というよりも汚しているそれと相違なかったのだから。
一度にへらで掬い過ぎた膏薬を指先はおろか、指の関節や手の甲――最悪の場合は、成恢の衣の上にまでボタボタと落としたことも数知れず。そのうえ落ちた塗料を拭い去ろうとしては、余計に擦り込ませて広げてしまう始末であった。
互いの手を血とは異なる赤で染め上げ、思ったよりも難しい行為と繰り返される失敗に対し、流石のシキも苦笑が絶えなかった。
「あー……、あはは、えっと、その……ごめんなさーい……」と、自然とすぼむ語尾を苦笑で誤魔化す彼女に対し、容赦なく「不器用にも程があるわ」だの「爪に塗れと言ったのだ、指ごと染め上げろとは言っておらん」だのと毒舌を浴びせたものだ。
褒美の件を取り下げてやろうともしたこともあったが、「わーーっ、ごめんなさい~~!ちゃんと上手になるから許してください!」とシキが慌て、それだけは嫌だとごねるから渋々、否、嫌々続けさせてやっていた。
今ではそのぎこちなさも鳴りを潜め、端に溜まった膏体を丁寧に均し、塗り残しがないか確かめる程となっている。
奇妙なものだった。何もかも。