第6章 歪を彩る
成恢が己の探求心を満たすべく、自らの肉体を実験台にしてまで毒の深淵へ没入していることを――そして、同時にそれが韓の第一将という重責を果たすことへと繋がることを、シキはただただ純粋に肯定している。
研究の過程で、どれほど成恢の身体が毒に蝕まれようとも、今より姿が醜悪に変わり果てようとも構わずに。
どころか、起こり得る変化を悲劇のように厭うことなくありのまま、好ましくさえ受け入れて。
そうして、成恢の在り様を美しく、尊いもののように扱うのだ。
「この国で誰よりも頑張ってる成恢さまの手が、一番可愛くって綺麗です」
毒に侵され、損なわれた肉体の爪先に、花から作られた紅を塗り重ねながらシキが誇らしげに笑う。
ありのままを受け入れながらも、成恢を美化して捉えるシキの脳内変化は相変わらず理解し難い。
だが、例の木簡を送りつけてきた一部の浅薄な文官どもに比べれば――目の前で成恢の手を愛おしそうに撫で、毒に冒されゆく過程すら「韓のために頑張っている証」と喜ぶシキの方が、遥かにマシというものだった。
「随分と知った風なことを言うようになったな、シキ」
「だって知りたいから。成恢さまのことは何だって」
全然教えてくれないですけど、と。
然程気にしていなさそうに冗談めかして言いながら、シキがクスクスと肩を小さく揺らす。
その姿を見つめる成恢は、己の胸に下らぬ感傷が過ったことを察した。
――――それが、ほんの一瞬でも心地の良いものとして感じてしまった。
「成恢さま。ほら、とっても可愛い」
最後の一枚となった爪も塗り終えたシキが満足そうに微笑みながら、出来栄えを成恢に見せてくる。
「……可愛いものか。馬鹿が」
「えー」
シキの明るい声に紛れた、成恢の吐息に――微かな笑みが含まれていたことを、果たして気付いていただろうか。
……否、きっとこの様子では気付いていまいな。
結ぶように握られた手の、淡いぬくもりも知らぬ女なのだから。
鳳仙花と朱砂が齎す鮮烈な紅に彩られた爪先は、死毒と共にある己の手と、どこまでも相容れず、歪であった。