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死毒に彩なす

第6章 歪を彩る


断りたい気持ちも理由も、いくらでも突き付けてやれたというのに……。

けれども結局、成恢の冷えた理性を上回ったのは――――シキへの情けであった。

常々この女の異常さを薄気味悪くも興味深く、そして――"憐れ"にも思っていたからこそ、悩んだ末に渋々この奇妙な要求を呑み、承諾してやったのだった。


それが今や戦後の恒例行事として定着しているのだから、人生の算段というものはどこで狂うかわからないものだ。


「――――成恢さま、成恢さま。もうちょっと指の先、伸ばしてほしいです」

膝をついたままのシキが成恢の手元を覗き込むようにして、ねだってくる。
爪紅を塗る経緯を軽く回想していた成恢がどこか上の空であったからだろう、名前を連呼してくる声音が小鳥の囀りを思わせた。

薄く息を吐き出したそれを返事代わりとした成恢は、無造作に脱力させていた青紫色の指先をスッと伸ばしてやる。

それを見たシキは小さな竹のへらを手に取ると、小壺の口へと差し入れた。
へらを引き上げれば、粘り気のある紅が小さな塗料の塊となって持ち上がる。

「動かしちゃダメですよ」
「いちいち言われなくとも、わかっておる」

何度目だと思っているのだ、という刺を含んだ言葉を返されたというのに、シキはますます嬉しそうに笑みを深めた。
満足げな表情を湛えたシキは、そのまま成恢の指をそっと支えるように自身の指先の上に添わせる。

へら先に掬い上げられた鮮やかな朱色の膏薬が、成恢の青白い爪の上へと、とろりと重ねられた。

「血の色みたいで綺麗ー」
「…………」

成恢は、もはや何も言わなかった。突っ込んだら負けだという気持ちだった。
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