第6章 歪を彩る
命令を与えれば、シキは素直に従う。
余計な異論や疑問を挟むこともなければ、役目を果たすために一切の躊躇もしない。
軍略の駒としてみれば、シキの扱い易さは実に都合が良いものであった。
だが、それは人を率いる才とは異なる。
――――シキという女は、哀しい程に将の器がなかった。
生まれつきの無痛によって自他の苦痛に無頓着であり、共感性もない。
また、他者に一切の興味も持たぬが故に人の心情を汲み取ることを著しく不得手としている。敵味方の心理の擦り合わせも同様だ。
将において必要不可欠である術――相手の性格や行動の癖を読み解き、考察する力が……所謂『人読み』が全く出来ないのだ。
個人で戦況を見極め、敵を各個撃破することに関しては特化していても自他共に顧みない、統率力が皆無な者を上に立たせるわけにはいかない。
何より成恢自身が、シキを自分の手元で扱う今の形態を変えるつもりがなかった。
これが、もう一つの理由だ。
彼女の昇進の道を閉ざすことに躊躇はない。
下手にシキに階級を与えては、己の毒兵器と最も相性の良い駒を、わざわざ手元から遠ざけることにもなりかねないからだ。
そんな愚を犯すくらいならば、今のまま己の指揮下に留め置く方がよほど有意義であり、合理的だ。
シキの性格や特異体質の有用性を誰よりも――あるいはシキ自身よりも理解しているのは己である、と成恢は自負している。
故に成恢は、シキを他の将の指揮下に置くことすら許さなかった。
シキの能力を最も有効に活用できるのが己である以上、シキを手放す理由も、他人に渡す理由もどこにもないのだから。
よって、シキが挙げた武功はすべて、軍の記録上では成恢の策や毒兵器の運用による戦果として処理されている。
世間や軍の上層部が知れば、これは第一将による陰湿な功績の強奪に映るだろう。
……とはいえ、これはシキとの合意の上に成り立っている取り決めであった。
本人は、それはもうあっさりと「いいですよー」と軽く頷いていた。
出世欲や地位に何の価値も見出さぬシキにとっては、武功をもみ消されたところで痛くも痒くもなかったからだ。
「それで成恢さまと一緒にいられるなら、何だっていいです」という言葉通りの意味以外に理由のないシキは、むしろ嬉しそうにさえしていた。