第6章 歪を彩る
成恢は、己の手を戯れに握るシキの両手を見やった。
一見すれば、健康的な若い女人らしい手に映る。
小柄な体格に準じた大きさは、可愛らしくもあるのだろう。
しかし、日頃から戦場で剣を振るってきたシキの手は、こうして近くで見るほど小さな線傷が掌の各所に刻まれており、皮膚も相応に固い。
紛れもなく、修羅場を潜り抜けてきた剣士のそれである。
華奢な外見に反して、成恢の手よりも遙かに武人らしいともいえた。
こうして触れ合わされれば、嫌でも対比が目視できる。
それぞれ異なる生き方を辿った痕跡が。
シキは構わず好ましく思っているようだが、どこまでも歪にしかならないな、と成恢は自嘲を込めて内心で呟いた。
成恢の爪を拭い終えたシキは、次いで横に置いていた件の小壺を手に取った。
親指の先程の大きさしかない薬壺は滑らかな陶器で出来ており、口を覆っていた布の結び目を解くと、香草の独特な匂いがふわりと漂ってくる。
壺の中に満ちているのは、一際鮮やかな紅であった。
「成恢さま、見てみて。ほら、この色っ、前の紅よりも明るいでしょ?」
目を輝せながら壺を軽く傾け、壺口を成恢に向けるシキ。
成恢は、仕方なしに壺の中へと視線を落とした。
シキの言う通り、前回己の爪に塗られた重厚な深紅に比べれば、此度の紅はどこか若々しく、華やいだ明度を帯びている。
乾燥させた鳳仙花の花弁と明礬を原料とし、それらを擦り潰して滑らかな油脂を加えることで発色を高めているのだ。
「ぜったい成恢さまの爪に塗ったら綺麗だと思う!」
「くだらん戯言を……」
常人の美意識からは遠くかけ離れた感性を以てして、自信のある声色で世迷言を宣うシキを、成恢は心底呆れたように見つめた。
嫌気を示すように低く吐き捨てはしたものの、シキには全く響かない。
成恢を大切に扱いたい気持ちはあっても、一度たりとも成恢の心情を顧みたことがないのだから無理もない。
シキは、どこまでも自己都合を無邪気に貫く、身勝手な女だった。