第6章 歪を彩る
紐を解いて広げた面に記されているのは、遠方の薬師が記した劇薬の調合方や、毒を持つ異国の植物が齎す障りの記録だ。
手元を照らす燭台の灯りの下、整然と並ぶ文字の中から目ぼしい箇所を時折指先でなぞりながら目を通していく。
――が、それだけだ。
常であれば、次の試薬開発の発想や兵器への応用に転換させるところだが、今宵はどこか億劫な気が勝った。
程なくして一巻を読み終えると、丁寧に巻き直して卓に戻す。
次いで、韓の朝廷から届いていた、軍事に関する木簡を手に取った。
一つ目の木簡に記されているのは、強国が鉱山を抑えた報せだった。
交易の制限に伴い、割を食っている領内の現状についてが克明に綴られている。
また、今回の煽りを受けて、次の季節までに前線へ回せる兵糧の限度が厳しく、心許ない旨も記されていた。
韓軍が確保できる物資量が年々削られている懸念については、軍議でも議題に上っていたことだった。
どれほど優れた将軍がいたとしても、物資が不足していれば軍を動かすことは出来ない。
芳しくない状況ではあるが、凡そは己の予測の範囲内に留まっていることでもある。
だからこそ、先の戦における兵糧や武器、軍馬の損耗も概ね成恢の見積もり通りに収めてみせた。
無論、計画の枠内であったからといって、損耗そのものが"少ない"と言い切れる訳ではないことを成恢も重々理解している。
韓は、七国の中で最も勢力の小さい国である。
強国であれば一方の損失を他の地域から補う余力が十分にあるが、韓の乏しい国勢では限りも知れている。
これに関しては、成恢がどれほど戦術を工面し、毒兵器によって兵士の消耗を抑えたとしても、どうしようもないことだった。
国家全体を取り巻く不利な条件を毒兵器だけで帳消しになど出来ないこともまた明白な事実。
加えて、成恢が用いる毒兵器に関わる費用が重なれば、現状の厳しさはさらに浮き彫りになる。
続けて開いた二つ目の木簡には、まさしくそのことについてが厭味たらしく詳細に綴られていた。