第5章 指先の証―シキ視点―
おかしな要素で構成された自分の身体は、成恢どころか世間のあらゆる人間と違う点しかない。
けれども興味なんて一欠片も抱けない。
そんなシキの死滅した好奇心が狂おしいほどに揺さぶられ、忙しなく息衝くから世界でただひとり――――成恢だけが、特別だった。
シキは、成恢の汗が滲む己の指先を、そっと自分の頬へと滑らせた。
温度を感じることは出来ないが、仄かに湿った名残を帯びた指先の感触が肌に伝わる。
――――こんなものは汗をかく真似事にも満たない、滑稽な行為だ。
成恢と同じものが得られた訳でもないのに、不思議と心地が良いような気になってくる。
「……ふふ、ヘンなの」
流石にこればかりは、我ながらおかしなことをしているという自覚があったシキは、目を伏せて小さく笑った。
再び顔を上げれば、怪訝そうな顔付きの成恢と目が合う。
「ごめんなさい。なんだか急に珍しい気がしちゃって、つい……。成恢さまも、ちゃんと汗をかくんですね」
「俺も生きておるからな。……このような姿になろうとも、肉体が朽ち果てておらん限りは汗もかけば、血も流れる」
「そっかぁ……。いいなぁ、成恢さまは生きているって感じがいっぱいして」
シキは肌に残った成恢の汗の感触が消えぬよう、片手の掌を頬に当てながら何気なく呟いた。
「……白々しいことを吐くな。本当は羨んでもおらんのだろう」
「!」
成恢の指摘にシキは、ハっとしたように暫く目を見開いていた。
それから、ゆったりと常と変わらぬ幼気な笑みを広げていく。
「……ふふっ、そうですね」
実際のところ、成恢が見抜いた通り、シキは本気で成恢を羨ましがっているわけではなかった。
普通の人間ならば、どれか一つに生きている実感を見出すのだろうが、生憎と痛覚も味覚も温度も、シキにはどうしたって実感できないものだ。
どれほど動いても汗をかかないし、どんな猛毒に触れようと苦にもならない。
だからといって自分も人間らしくなりたい、などと願っているわけではなかった。
ただ、成恢の身体に浮かんだ汗を見たことが、なんとなく気になっただけ。