第5章 指先の証―シキ視点―
睫毛が抜け落ちているせいで窪んでも見える目元からギロリと視線を向けられれば、その得も言われぬ不気味さに誰もが息を呑むことだろう。
だが、シキはお構いなしに指の腹を滑らせ、成恢のこめかみに浮かぶ汗をつい、と頬まで伸ばした。
途端、持ち上げられた成恢の手の甲が、シキの無礼な指先を容赦なく弾いた。
「やめよ」
弾かれた手をしばし虚空に漂わせていたシキは、きょとんとして固まった後、自分の指先に残る成恢の汗の名残を見つめた。
――――生まれつき温痛覚が消失しているシキの身体は、季節の巡りや温度の変化を自覚することができない。
どんなに過酷な暑さの中に身を置こうとも、その肌から汗が流れることはなかった。
故に"汗"とは、自分には一生縁のないものだ。
この身体がそういう風に出来てしまっている以上、仕方のないものであり、別段惜しむようなものでもないとも思っている。
それなのに気付けば、汗を纏った成恢に手を伸ばしていた。
別に、汗をかいている人間を見るのが初めてというわけではない。
周囲で茹だっている兵士たち然り、あの屈強な奈棍然り。
成恢より、よっぽど汗に塗れた姿を目にしてきた。
シキの亡き師匠であり育ての親であった男も、かなりの汗っかきだった。
感情の揺れ幅が大きい人でもあったため、たまに汗なのか涙なのかわからないものを滝のように流しており、いつか枯れちゃうんじゃないかなと思ったこともある。
本当に枯れたら困るから桶に溜めた水をぶっかけて水分補給してあげたら「いらんことせんでいいわ!」と空になった木桶で頭を叩かれたこともあった。
自分にないものを持っている人間など、この世の中に溢れている。
今までそんなものを見かけたところで、心を動かされたことなど一度たりともなかった。
――――なのに、どうしてかな。
成恢と自分が"違う"点を見つけると胸の奥が妙にざわつき、気になって仕方がなくなるのだ。
まるで色のない世界の中で、そこだけが突然美しい色を持ったかのように――いつもいつも成恢のことが、ひどく鮮やかに見える。