• 小
  • 中
  • 大
  • テキストサイズ

死毒に彩なす

第5章 指先の証―シキ視点―



甲冑を脱ぎ捨て、蒸れた衣すら剥ぎ取って疲弊する兵士たちの横を通り過ぎながら、成恢の姿を探す。

程なくして部隊からやや離れた場所に立っている成恢を見つけた。
迷いのない軽い足取りで彼の元へ向かう。

呼んでもいないのにやってきたシキを常の無表情で――どことなく呆れたような色合いを浮かべて一瞥した成恢は、そのまま何事もなかったかのように顔を背けた。
まるで見なかったことにしたかのような仕草だ。

完全なる無視も気にせず、シキは平気で隣に居座った。
休息を取れというならば、ここが一番落ち着く場所なのだから仕方ない。

「風が鈍いな……。――――黒弓隊に伝えよ。風上の位置取りを誤れば、自軍の陣立てごと毒に呑み込まれるぞ、と。刻限を見極め、合図を待て」
「はっ!」

馬の蹄が重い土を蹴り上げ、伝令が慌ただしく走り去っていく。
蹄の音が遠のき、再び静けさが戻ってくるまで成恢の隣で大人しくしていたシキは、ふと顔を上げた。

兜を脱ぎ、重苦しい天気を仰ぎ見る成恢の横顔。

どうやら本日は天候に恵まれたようだ。
誰もが蒸し暑さにやられて喘ぐ中、絶好の毒兵器運用日和に対して、成恢の口端がゆったりと持ち上がっている。
感情の起伏がほとんど見受けられない表情が常であるから珍しい。

成恢さまは今日も可愛いなぁ、と微笑ましく思ったところで――ふと、毒によって変色した青紫色の地肌に、じっとりと汗が浮かんでいるのを見つけた。
シキはわずかに瞠った目をしばたかせると、しばしその光景を見つめる。

「――、」

ふいに人差し指を伸ばしたのは、半ば無意識の動作だった。
ぴとり、と彼のこめかみ近くへと軽く押し付けた指先に伝わる、わずかに湿った感触。

「…………」

成恢は無言のまま、冷ややかな横目でシキを睨み据えた。
せっかく僅かに持ち上がっていた口角も下がり、彼の表情は一気に不機嫌なものへと変貌する。
/ 57ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp