第4章 指先の証―成恢視点―
異なことをするシキの行動原理を解明しようとするほど、眉間に皺が刻まれる。
そんな成恢をあどけなく見上げて、シキは苦笑にも似た笑みを広げた。
「ごめんなさい。なんだか急に珍しい気がしちゃって、つい……。成恢さまも、ちゃんと汗をかくんですね」
今の今まで知らなかった訳ではないだろうに、まるで今更知ったかのような素振りを見せる。
能天気で、どこか浮世離れしたシキの呟きに対して、成恢はふっと自嘲気味に鼻で息を吐いた。
「俺も生きておるからな。……このような姿になろうとも、肉体が朽ち果てておらん限りは汗もかけば、血も流れる」
「そっかぁ……。いいなぁ、成恢さまは生きているって感じがいっぱいして」
――いいなぁ、と言ったシキの言葉に成恢は目を細める。
次いで、深く息を吐き捨てた。
「……白々しいことを吐くな。本当は羨んでもおらんのだろう」
汗をかかずとも、血を流すことなど幾度となくあったはずだ。
生きている実感など、それで賄えるのではないかとも思った成恢は、しかし、寸でのところで口にするのを止めた。
……この女が痛みすら感じない体質だったことを思い出したからだ。
ならば、血を流す痛みで『生』を実感することさえ、彼女にとっては遥か遠いものなのだろう。
先程からのシキの他人事同然な口振りからして、今まで"生きている"ことを実感する必要もなかったことが窺える。
であれば、あの奇行は正しく"人間らしさの真似事"に興じているとも言えた。
「…………」
成恢の指摘にシキは、ハっとしたように暫く目を見開いていた。
それから、ゆったりと常と変わらぬ幼気な笑みを広げていく。
「……ふふっ、そうですね」
おかしそうに肩を小さく揺らして肯定を紡ぐシキの声は、無邪気でありながら何処か空虚な響きを感じる。
……真意を、測りかねた。