第4章 指先の証―成恢視点―
己の皮膚に残る不快な湿り気と、毒によって変色した醜い地肌。
それを恐れることも、忌避することもなく、まるで慈しんで確かめるように触れ――あまつさえ自身の肌へと写し取ろうとするシキは、つくづくおかしな女だった。
……憐れだとも思えた。
兵器足り得る毒を極限まで練り上げるため、成恢はこれまで数えきれぬほどの検体を解体し、毒に冒されゆく肉体の変化を観察してきた。
人は、身体を巡る『気』と『血』によって生きている。
皮膚から外気を知り、温度を察知するのだ。
汗とは、体内に溜まった熱を逃がすための生理代謝であり、肉体を持つ人間として当然の反応であった。
……だが、この女にはそれがない。
血気の巡りそのものが狂っているのか、あるいは神経の結びつきが生まれつき壊れているのか……。
数多くの罪人や捕虜の肉体を毒で壊してきた成恢を以てしても、この女の肉体構造は怪奇でしかなかった。
「……不気味な真似をするな」
成恢の掠れた声が、重く湿った空気に溶ける。
指先に残した成恢の汗を自身の肌に塗りたくり、どこか嬉しそうに目を細めているシキの姿は、異様以外の何物でもない。
人形が人の真似事をしているようにも見えると思えば、殊更に気味が悪かった。
されども、こんな形でしか人間の"常"を知ることが出来ないシキのことを、傷ましくも感じる。
成恢の身体の異常は、自らが選び取った道の代償だ。
シキは可愛いだの、綺麗だのと訳のわからない賛美を贈るが、やむを得ず常人ならざる醜い姿に変貌した成恢と違い、シキの異常は全て生まれ持ったものだった。
それなのに何一つとして悲観することなく、それすらも興味の範疇に置いていないシキの振る舞いこそが真に異常足らしめているようにも思えたが……。
故に、というべきか。
今まで気にしたことがないだろう事柄を、よりによって成恢から見出すから、その違和感に異様さを覚えてならない。
シキが今になって普通に憧れようとも、生まれつきの異常は成恢にはどうしてやることも出来ないからこそ、目の当たりにする光景はどうしたって薄気味悪く、後味の悪いものにしかならなかった。
今更、普通の人間らしさを望んでいる訳でもなかろうに……。