第4章 指先の証―成恢視点―
――――ぴとり、と。
ふいに、こめかみ近くへと指先が軽く押し付けられた。
誰の仕業か考えずともわかってしまう己にすら、ある種の嫌気を覚えながら視線だけを差し向ける。
だが、元凶たる女――シキが、己の視線のみに託した煩わしさへの意など解するするはずもない。
どころか、事もあろうに奴は指の腹を滑らせ、成恢のこめかみに浮かぶ汗をつい、と頬まで引き伸ばしてきた。
他人に無造作に触れられること自体、己の毒に蝕まれたこの肉体にとっては等しく不快でしかない。
持ち上げた手の甲で、シキの無礼な指先を容赦なく弾き打つ。
乾いた音が重苦しい空気の中に響き、シキの手が虚空に弾かれた。
「やめよ」
短い言葉に込められた苛立ちは、この纏わりつく湿気と暑気のせいであることが大半だった。
無論、シキの不躾な行動も原因ではあるが、どちらかといえば苛立ちに拍車をかけたという方が正しい。
何にせよ、実に他愛もなく、碌でもない真似であった。
弾かれた手をしばし虚空に漂わせていたシキは、きょとんとして固まった後、己の指先に残る成恢の汗を見つめていた。
相変わらず何を考えているのか理解し難い女だ。
一体、今度は何を思っているのかと呆れていれば、彼女は徐にその指先を――そっと自らの頬へと滑らせた。
思ってもみない行動に成恢の目が僅かに瞠る。
……何をしている?
問うことすら妙に憚られ、成恢は努めて冷静に女を凝視した。
微睡む猫のように細められた瞳がひと際、女の意図を測りかねさせる。
「……ふふ、ヘンなの」
その言葉は、頬に纏わせた成恢の汗の名残に対してか、はたまた自分自身の行いに対してか――願わくば後者であってほしいが、自らのおかしな行動に気付いたところで、この女が改めるとも思えなかった。
「…………」
一連のシキの奇行を、成恢は静かに見下ろしていた。
冷たい眼差しの中に微かな呆れと、不快感とは異なる複雑な感情が混ざる。