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死毒に彩なす

第4章 指先の証―成恢視点―


「でもね、成恢さま。私、成恢さまが"生きてる"っていうことがわかるのは、よかったって思うんですよ」

再び伸ばされた指先が、成恢のこめかみを撫でるように触れる。

「――――"これ"が、アナタがちゃんと生きてるっていう証の一つなら、触れられて嬉しい」

あまりにも不用意に、無遠慮に――けれども、どうしようもなく穏やかに肌をなぞる指先の軽やかさ。

どす黒い血管を幾重にも浮かせ、死人よりも不気味に血の気を失った肌にじとりと浮かぶ汗から成恢が生きている確証を得るシキが、まるで本当に幸せそうに微笑むから――――その手を、先程のように振り払うことが出来なかった。


人間として当たり前に持っているものを何も知らぬまま生きているシキが、薄気味悪かった。
"知らない"ということを哀しいとも不幸とも思っていないシキが、憐れだった。
知らないことを、知らぬままでも生きていけてしまうシキが、愚かしくもあった。
成恢の"生"に触れる無垢なシキの指先が……触れた指先から伝わる、彼女の内側で息衝く歪みが――どこか、恐ろしかった。


成恢の胸の奥で、毒のように淀んだ重たい何かが静かに沈殿していく。

目の当たりにする"異質"に複雑な感情が絡み合って、不可解な熱を帯びてせり上がろうとするのを冷えきった理性が押し込めた。
こんなものは所詮一種のまやかしと変わらぬと密やかに断じながら、徐に片腕を持ち上げる。

「…………やめよ」

成恢は、今度こそシキの手を払い除けた。
先程よりも弱いそれを受けて、シキもあっさりと手を下ろした。

シキの手が離れたことを皮切りに一歩の距離を取った成恢は、袖口で己の額の汗を雑に拭うと下ろしていた兜を手に取り、背を向けながらシキに告げる。

「下らんことを言っておらんで、備えよ。そのようにぼうっとしておると、戦場で真っ先に首を落とされるぞ」
「はーい、成恢さま。どこまでもお供しますよー」

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