第1章 始まり
翌朝。
「……頭いてぇ」
斗和は布団の中で呻いた。
昨夜は結局、実弥に言われたことが頭から離れず、酒を飲み続けてしまった。
「急にいなくなるみてェな真似すんな、か……」
思い出すだけで胸が熱くなる。
「……ほんっと、ずるい男」
自分から離れようと決めたのに、あんな言葉をかけられたら揺らいでしまう。
それでも――。
(実弥にとって、私は何なんだろう)
仲間。
先輩。
心配する相手。
それ以上ではない。
そう思おうとした、その時。
「斗和!」
障子の向こうから聞き慣れた怒鳴り声が響いた。
「……げ」
「聞こえてんぞォ! 開けろォ!」
仕方なく障子を開ける。
そこには腕を組んだ実弥が立っていた。
「お前、昨日あれだけ飲んで今日も任務だろォ」
「……ちゃんと行けるって」
「信用できねェ」
「ひどくない?」
「ひどくねェ。自業自得だァ」
実弥は斗和の顔をじっと見る。
「……何だよ」
「顔色悪ィぞォ」
「二日酔い」
「馬鹿かァ」
「知ってる」
即答すると、実弥が呆れたように息を吐いた。
「……飯、食え」
「いらない」
「食え」
「実弥が作ってくれるなら」
「調子乗んなァ」
そう言いながらも、実弥は踵を返した。
「……お粥くらいなら作ってやる」
「え?」
「聞こえなかったならいい」
「聞こえた聞こえた!」
斗和が慌てて追いかける。
その背中を見つめながら、斗和は小さく笑った。
(……やっぱり、好きだなぁ)
けれど同時に、胸の奥が痛む。
カナエのことを大切にしていた実弥。
そんな彼の隣を、自分が望んでいいのだろうか…