第1章 始まり
カナエの葬儀が終わってから、斗和は以前にも増して酒を飲むようになった。
「……忘れられれば、楽なのにな」
カナエの最期と、しのぶの泣き声。そして――カナエに向けられていた実弥の柔らかな眼差しが、頭から離れない。
そんなある夜。
「……おい」
「……実弥?」
振り返ると、実弥が立っていた。
「何してやがる」
「飲んでるだけ」
「最近、そればっかじゃねェか。任務の後も飲んでただろォ」
「……いいじゃん。私の勝手でしょ」
「勝手にしちゃァいるが……お前、なんか変だぞォ」
実弥は眉を寄せる。
「俺と目ぇ合わせねェし、話しかけてもすぐどっか行きやがる。何なんだァ?」
斗和は俯いた。
「……カナエさんのこと」
「……あァ」
「実弥、辛いでしょ」
「……そりゃ、辛ぇだろ」
その言葉に胸が痛む。
「だから……しばらく、私からは近づかないようにしようと思って」
「……は?」
「カナエさんを失ったばかりだし。私が側にいたら、実弥も落ち着かないでしょ」
「何でそうなる」
「だって……実弥、カナエさんのこと、大切だったでしょう?」
「あァ。大切な仲間だった」
実弥は拳を握る。
「……だから余計に、胸糞悪ぃ」
「……うん」
「だが、それとお前が離れることに何の関係があんだァ?」
「……え?」
「俺が辛ぇからって、お前まで勝手に距離取る必要ねェだろォ」
斗和は答えられなかった。
本当は――実弥がカナエを想っていたのなら、自分が隣にいるべきではないと思ったのだ。
「……ごめん」
「謝ってんじゃねェよ。ただ……」
実弥は少し黙り、ぶっきらぼうに言った。
「……急にいなくなるみてェな真似すんな」
「……」
「お前まで何かあったら、面倒くせェんだよォ」
不器用な言葉。
けれど、そこに心配が滲んでいるのが分かった。
「……分かった」
「本当だろうなァ?」
「うん」
実弥が去ったあと、斗和は胸元をぎゅっと握る。
(……ずるいよ、実弥)
そんなふうに心配されたら――もっと好きになってしまう。
けれど実弥はまだ知らない。
斗和が自分に向ける、この感情の名前を。
そして斗和もまだ知らなかった。
この想いが、やがて二人の運命を大きく変えることを。