第6章 昔話をしてみようか…
「……お前にも、そんな頃があったんだなァ」
実弥がぽつりと言った。
「家出みてェに里を出て、それから何年も帰ってねェんだろ?」
「……まあね」
「なら――帰ればいいじゃねェかァ」
「え?」
「なんなら、俺もお前の家族に挨拶しねェとなァ?」
「…………」
斗和の顔が引きつった。
「……それは駄目」
「何でだァ?」
「原作と違うことしちゃダメー!」
「…………は?」
実弥の眉間に皺が寄る。
「その『原作』ってなんだ?」
「…………」
「いい加減、話せェ」
逃げ道を塞ぐような実弥の視線。
斗和は観念したように息を吐いた。
「……実はね」
しばらく黙ったあと、斗和はゆっくり口を開く。
「私には、前世の記憶がある」
「前世?」
「うん。私はこの世界とは違う場所で生きてた。……異世界人みたいなもの」
実弥は黙って聞いている。
「そこでね。実弥たちや、鬼殺隊のことが書かれた本があったの」
「……本?」
「そう。そこには、誰が鬼になるのか。誰が死ぬのか。どんな戦いが起きるのか……全部書かれてた」
実弥の表情が険しくなる。
「つまり、お前は……俺たちの未来を知ってたってことかァ」
「……そう」
「だから時々、『原作と違う』とか言ってたのか」
斗和は小さく頷いた。
「本来なら、私が関わるはずのない場所にいるから。未来を変えすぎるのが怖くて……」
実弥はしばらく黙っていた。
やがて、低い声で呟く。
「……じゃあ、お前が俺のことを知ってたのも」
「本に書いてあったから」
「俺がどうなるかも?」
「……知ってた」
実弥の拳が、ぎゅっと握られる。
「だったら――」
斗和を見る。
「何で俺なんか好きになったんだァ?」
「…………」
斗和は少しだけ笑った。
「本に書いてあった実弥じゃなくて、私が出会った実弥を好きになったからだよ」
実弥は目を逸らした。
「……そうかよ」
耳だけが、僅かに赤くなっていた。