第5章 俺の守りたいもの…②
「不死川があれほど荒れていた原因が、お前だと分かっただけでも収穫はあった」
「……え?」
斗和が瞬きをする。
伊黒は淡々と続けた。
「お前が遊郭へ行ってからというもの、あいつは酷かったぞ」
「……そんなに?」
「任務では隊士に必要以上に当たり散らす。休めと言われれば怒鳴る。少しでもお前の話が出れば機嫌が悪くなる」
「…………」
「挙げ句の果てには、お前の煙管を勝手に使っていた」
「あたしの煙管を!?」
「吸っては『不味ィ』と吐き捨てる。それでも手放さない」
「……ふふっ」
「笑うところではない」
伊黒はさらに追い打ちをかける。
「女隊士に告白された時も、お前の名前を出して断ったそうだ」
「……!」
「『俺が守りてェと思ってんのは斗和だ』と」
斗和の顔が一気に赤くなる。
「しかも、その女がお前を悪く言った途端、露骨に機嫌を損ねたらしい」
「実弥……」
「随分と分かりやすい男だ」
伊黒は一度、斗和の顔を見た。
そして――頭の先から、ゆっくりと視線を落としていく。
髪。
額。
眉。
切れ長の瞳。
すっと通った鼻筋。
形の整った唇。
首筋から肩、羽織の下の身体つき。
腰のくびれ。
そして、すらりと伸びた脚。
最後に、もう一度その顔へ視線を戻す。
「……まあ」
「何だよ」
「不死川があそこまで騒ぐ理由も、少しは理解できた」
「は?」
「随分と整った顔をしている。目元も悪くない。黙っていれば、それなりに上品に見える」
「それなりって何だよ!」
「髪も綺麗だ。肌も年齢の割には――」
「年齢の割には!?」
「三十七には見えない、と言っている」
「言い方ァ!」
伊黒は無表情のまま続けた。
「身体つきも悪くない。女としての魅力も……まあ、ある方だろう」
「めちゃくちゃ嫌味ったらしいな、お前!」
「褒めているつもりだが?」
「絶対嘘だろ!」
伊黒は蛇を肩に這わせながら、淡々と告げる。
「少なくとも、不死川が他の女を見る気をなくす程度にはな」
「…………」
斗和の顔が、耳まで真っ赤になった。
「……実弥、そんなにあたしのこと好きだったのかよォ……」
「だから言っただろう。帰ったら、せいぜい責任を取ってやれ」
「責任って何のだよォ!!」