第5章 俺の守りたいもの…②
「……早く帰って来い、斗和」
実弥が呟いた、その直後だった。
「待ってください!」
背後から、また女性隊士の声が飛んでくる。
「私、本当に諦められません!」
「……まだ言うのかァ」
「だって! どう考えても私のほうが不死川さんに相応しいじゃないですか!」
実弥の眉間に皺が寄る。
「斗和さんなんて、酒ばっかり飲んで、煙管まで吸って……!」
「……」
「三十七にもなって、あんな生活して! 不死川さんを振り回してるだけじゃないですか!」
「……帰れェ」
「嫌です!」
女性隊士は涙を流しながら叫ぶ。
「私なら毎日ちゃんと支えます! 料理だってできます! お酒なんか飲まないし、もっと女らしく――」
「俺ァ、そんなもん求めてねェ」
「でも!」
「それに、斗和を悪く言われんのが一番気に食わねェんだよォ」
「どうしてですか!? あんな人より私のほうが――!」
「黙れ」
低い声。
女性隊士は一瞬怯む。
だが、また縋るように実弥の袖を掴んだ。
「お願いです! 一度だけでいいから私を見てください! あの人なんか忘れて――」
「触んなァ!」
実弥が腕を振り払う。
「何度言わせりゃ分かるんだァ!」
苛立ちがついに声へ滲んだ。
「俺は斗和を忘れる気もねェし、テメェと付き合う気もねェ!」
「……っ」
「俺が今、何考えてると思ってんだァ」
実弥は遊郭のある方角を睨む。
「斗和が無事か。それだけだァ」
女性隊士は涙を流しながら、それでも呟く。
「……でも、私のほうが――」
「まだ言うかァ……!」
実弥は額を押さえ、深く息を吐いた。
「……クソが」
斗和がいない。
その寂しさだけでも苛立つのに――。
「……あいつが帰って来たら、絶対ぇ離さねェ」
女性隊士には聞こえないほど小さな声で、そう呟いた。