第5章 俺の守りたいもの…②
最初は、ほんの少しだった。
「不死川さん、次の指示を――」
「自分で考えろォ」
「……はい」
いつもの荒い口調。
だが翌日。
「不死川さん、鬼の痕跡がこちらに――」
「遅ェんだよ! さっさと案内しろォ!」
「す、すみません!」
隊士が慌てて走り出す。
実弥はその背中を睨みながら舌打ちした。
「……チッ」
三日目。
「不死川さん、少し休憩を――」
「いらねェ!」
「ですが、先ほどから――」
「俺の心配してる暇があんなら鬼探せェ!」
隊士が黙り込む。
実弥自身も、自分が苛立っていることには気づいていた。
(……何でこんなイラついてんだァ)
答えは分かっている。
斗和がいない。
それだけだ。
そして、その夜。
隊士が恐る恐る口を開いた。
「……斗和さんから、まだ連絡はないんでしょうか」
「……」
実弥の目が鋭くなる。
「テメェにゃ関係ねェだろォ」
「すみません!」
隊士が頭を下げる。
その瞬間、実弥は自分の拳を見た。
――完全に八つ当たりだ。
「……悪ィ」
隊士が驚いて顔を上げる。
「え?」
「今のは俺が悪かった」
それだけ言うと、実弥は背を向けた。
縁側へ戻り、斗和の煙管を取り出す。
火をつける。
「……クソ」
一口吸って、顔をしかめる。
「早く帰って来やがれ……」
煙管を握る手に力が入る。
隊士に当たっても、苛立ちは消えない。
結局、実弥が欲しいのは――
任務の成功でも、鬼への勝利でもない。
ただ一つ。
「……斗和の声が聞きてェ」
それだけだった。