第5章 俺の守りたいもの…②
斗和が遊郭へ向かってから、数日。
実弥は縁側に座り、膝の上に置かれた煙管を見つめていた。
斗和がいつも使っていたものだ。
「……」
普段の実弥なら、煙管なんぞ吸わない。
なのに今夜は、無意識に手を伸ばしていた。
火をつける。
煙を吸い込む。
「……ゴホッ」
慣れていないせいでむせた。
「クソ、不味ィ……」
そう言いながらも、煙管を置けない。
斗和がここにいた時のことを思い出す。
酒を飲みながら煙管を咥え、くだらない話をして笑う斗和。
「……斗和」
もう一度、煙を吸う。
煙管に残った微かな匂い。
それだけで、胸の奥が締めつけられる。
「……まだ、テメェの匂いがする気がするなァ」
自分でも馬鹿らしいと思う。
ただの煙管だ。
それでも、斗和がいない今は、それだけが妙に恋しい。
実弥は煙管を指先で撫でた。
「……何やってんだ、俺ァ」
笑おうとして、上手くいかない。
「帰って来いよ……」
煙管を口元へ運ぶ。
今度はむせなかった。
「……斗和」
もう一度、名前を呼ぶ。
返事はない。
分かっている。
任務に出ているだけだ。
それでも――。
「……寂しいんだよ、クソが」
誰にも聞かれないよう、小さく吐き出す。
そして実弥は、斗和の煙管を手にしたまま、帰りを待ち続けた。