第4章 俺の守りたいもの…
「斗和、今夜はこのお客さんを頼むよ」
「はいはい」
新人とは思えないほど、斗和は落ち着いていた。
酒を注ぐタイミング。
客が話したい時には黙って聞き、調子に乗れば軽く笑って受け流す。
距離を詰めすぎず、かといって冷たくもしない。
「姉さん、もう一杯どうだい?」
「ありがとう。でも飲み過ぎると明日の仕事に響くからね」
「そいつぁ残念だ」
「その代わり、話ならいくらでも聞くよ」
男はすっかり機嫌を直した。
少し離れた場所で見ていた女たちが、ひそひそと囁く。
「斗和ちゃん、今日が初めてなんだよね?」
「なのに、なんであんなに客あしらいが上手いの?」
斗和は苦笑する。
(前世含めて、何年人間やってると思ってんだい)
ただし、それを口にするわけにはいかない。
そんな斗和の様子を、二階からじっと見下ろす女がいた。
豪華な着物。
艶やかな髪。
そして、異様なほど美しい顔。
蕨姫花魁――堕姫。
「……あの女」
付き人が振り返る。
「斗和ですか?」
「ええ」
堕姫は細く目を眇めた。
「新人なんでしょう?」
「はい。つい最近入ったばかりで……」
「なのに、あの客あしらい」
堕姫の声が低くなる。
「気に入らないわ」
斗和が別の客へ酒を注いだ瞬間、堕姫はふっと笑った。
「……でも、面白い」
その視線が、斗和を射抜く。
「一度、あの女を私のところへ呼びなさい」
「はい!」
斗和はまだ知らない。
自分が鬼を探していたはずなのに――
向こうから、鬼の方が自分を見つけ始めていることを。