第3章 守りたいもの…
翌朝。
斗和の屋敷の戸が、乱暴に開いた。
「斗和ァ!」
「……朝っぱらから何さ」
酒瓶を片手に振り返った斗和を、実弥は睨みつける。
「何で俺に言わねェ」
「何が?」
「柱になったことだァ!」
「ああ、それ」
斗和は肩を竦めた。
「お館様に捕まっただけ。断ったんだけどねぇ」
「……何で今なんだよ」
実弥の声が低くなる。
「煉獄が死んだ直後に、急に柱になるってのはどういうことだァ?」
斗和の笑みが消えた。
「……実弥」
「誤魔化すんじゃねェ。テメェ、前から柱になれるだけの力があったんだろ」
沈黙。
やがて斗和は、酒瓶を置いた。
「……昔ね」
ぽつりと呟く。
「私に酒の呼吸を教えてくれた育手がいたんだ」
実弥は黙って聞く。
「強くてさ。厳しくて、口も悪くて……でも、誰より優しい人だった…その人も毒入りの酒をよく飲んでた…これがないとやってられないんだ〜ってヘラヘラ笑って…」
斗和は遠くを見る。
「ある夜、任務から戻ったら、その人が鬼と戦ってた」
「……」
「あたしはまだ未熟だった。助けに入ろうとした。でも――」
斗和の指が震える。
「目の前で、腹を貫かれた」
「……斗和」
「鬼は笑ってた。師匠は血を吐きながら、それでもあたしに逃げろって言った」
声が掠れる。
「あたしは逃げなかった。怖くて、足も震えて……それでも刀を握った…そのうち…鬼は師匠の血で燃えるみたいに崩れてった…」
斗和は自分の手を見つめた。
「……間に合わなかった……」
「……」
「師匠が死ぬところを、私はただ見てた…何度も…何度も夢に見た…」
長い沈黙。
「だから柱になりたくなかった」
斗和は苦笑する。
「柱になったら、また誰かを背負わなきゃいけない。守れなかった時……また、あの光景を見る気がしてさ」
実弥の拳が、ぎゅっと握られた。
「……それでも、なったんだな」
「うん」
斗和は静かに笑った。
「杏寿郎を失ったからこそ……今度は、誰も死なせたくないって思った」
その言葉に、実弥は何も返せなかった。