第3章 守りたいもの…
「知らないほうがいいこともあるんだよ」
斗和はそう言って、いつものように笑った。
「……またそれかァ」
実弥は納得していない。
「柱にならねェ本当の理由は何だ?」
「だから、めんどくさいから」
「嘘つけェ」
即答だった。
斗和は肩をすくめる。
「本当だって。柱なんて責任重いし、会議も多いし、堅苦しいし。あたしには向いてないの」
「テメェが責任から逃げるような奴じゃねェのは知ってる」
「買い被り」
「……チッ」
実弥が睨む。
斗和は笑って誤魔化すが、その胸の奥には誰にも話せない記憶があった。
まだ自分が鬼殺隊に入りたてだった頃。
酒の呼吸を教えてくれた育手。
剣の振り方も、呼吸の使い方も、戦う意味も――全部その人から教わった。
その人が、鬼に殺された。
目の前で。
伸ばした手は届かなかった。
血に染まった師の姿を、斗和は今でも忘れられない。
だからこそ、柱という称号を受け入れられなかった。
柱になれば、また誰かを守る責任を背負う。
そして――また目の前で誰かを失うかもしれない。
だから斗和は、甲という立場に留まり続けた。
表向きは、ただの甲隊士。
けれど実際には、柱に匹敵する実力を持つ――隠し柱。
その事実を知っている者は、ごく僅かだった。
「……本当に、めんどくさいだけかァ?」
実弥が問う。
「うん」
斗和は迷いなく答える。
「柱なんて、めんどくさいじゃん」
笑顔まで完璧だった。
実弥はしばらく斗和を睨んでいたが、やがて舌打ちする。
「……テメェ、絶対何か隠してやがる」
「さあね」
斗和は酒瓶を傾ける。
その奥にある過去だけは――誰にも知られるつもりはなかった。