第3章 守りたいもの…
「何でもねェ」
実弥がそう言った直後、斗和が小さく笑った。
「……何か言った?」
「だから何でもねェっつってんだろォ」
「そっか」
斗和は目を閉じる。
けれど――本当は、聞こえていた。
「俺は、守り方を間違えてんのかもしれねェな」
その言葉を。
しばらく沈黙したあと、斗和は静かに口を開いた。
「あたしさ……妹だから分かるんだけどさ」
「……?」
「兄貴って、なんで頑なに妹や弟の意見を聞いてくれないもんなんだろうね」
実弥の眉が動く。
「妹や弟にだって、言い分はたくさんあるのにさ」
「……」
「マジで自分勝手」
「テメェ……」
斗和はくすっと笑った。
「実弥って長男でしょ。しかも、お兄ちゃん的立場!」
「……だから何だァ」
「だからさ」
斗和は実弥の手を握り返した。
「守るだけじゃなくて、ちゃんと話を聞いてあげたら?」
実弥の脳裏に玄弥の顔が浮かぶ。
何度も自分に向かってきた弟。
何かを伝えようとしていた弟。
それを自分は――聞こうともしなかった。
「……うるせェ」
「図星?」
「うるせェっつってんだろォ」
「ふふっ」
斗和は楽しそうに笑う。
「兄貴って大変だね」
「……テメェも妹だろォが」
「だから分かるんだよ」
その言葉に、実弥は黙り込んだ。
守ることしか考えていなかった。
玄弥が何を望んでいるのか。
何を言いたかったのか。
考えることすら避けていた。
「……俺ァ」
実弥が低く呟く。
「……弟の話を、ちゃんと聞いてやったことがねェな」
斗和は何も言わない。
ただ、握った手に少しだけ力を込めた。
「今からでも、聞いてあげればいいじゃん」
「……簡単に言いやがってェ」
「簡単じゃないよ」
斗和は目を細める。
「でも、兄貴だからって全部一人で決めなくていいんじゃない?」
実弥は答えなかった。
ただその言葉を、今度は逃げずに胸へ刻み込んだ。