第2章 誰も知らない秘密
「もう飲むなァ!」
実弥の怒声が屋敷中に響いた。
斗和の身体には、以前よりはっきりと異変が出ている。
紫色の斑点。震える指先。咳。酒を飲んだ直後の息苦しさ。
それでも斗和は、藤の花から抽出した毒を酒で薄め、今日も口にしていた。
「テメェ、自分が何してるか分かってんのかァ!」
「分かってるよ」
斗和は静かだった。
「だったら止めろォ!」
「……それじゃ、実弥はなんの為に鬼殺隊に入ったの?」
「……ッ」
実弥が言葉を失う。
斗和は酒瓶を握ったまま、淡々と続けた。
「あたしが鬼殺隊に入ったのは……鬼を里に来させない為」
「……」
「仮に来たとしても、あたしが食い止める為。だから、こうするしかなかった」
実弥の脳裏に、玄弥の姿が浮かんだ。
守りたかった。
弟だけは、鬼なんかに喰わせたくなかった。
だから自分が前に立った。
嫌われても、恨まれても構わない。
玄弥が生きてさえいれば、それでいいと思っていた。
――なのに。
「……同じじゃねェか」
実弥が呟く。
「え?」
「テメェがやってること……俺が玄弥にしてきたことと、同じじゃねェかァ……」
守るために、自分を傷つける。
相手には何も知らせず、自分だけが苦しめばいいと思う。
実弥は拳を震わせた。
「だから余計に腹が立つんだよォ……!」
「実弥……」
「守るためなら自分が壊れてもいいなんざ、そんな覚悟を俺は認めねェ!」
怒鳴りながらも、その声はどこか震えていた。
斗和はしばらく実弥を見つめる。
「……じゃあ、どうすればいい?」
その問いに、実弥は答えられなかった。
玄弥にも、同じ問いをされたことなどなかった。
ただ――今なら分かる。
守る側だって、守られたっていい。
「……一人で背負うなァ」
実弥は俯いたまま呟いた。
「俺まで巻き込め」
斗和の目が僅かに見開かれた。