第2章 誰も知らない秘密
斗和の異変は、その夜だけのものではなかった。
翌朝。
「……斗和」
実弥が見つけた斗和は、縁側で酒瓶を傾けていた。
だが、いつものように一気に飲み干すことはできない。
喉を押さえ、何度か苦しそうに咳き込んだ。
「最近、咳増えてねェかァ?」
「気のせい」
「顔色も悪ィ」
「寝不足」
「手ェも冷てェぞ」
実弥が手首を掴む。
斗和の指先は妙に冷たく、細かく震えている。
さらに袖を捲ると、腕には薄い紫色の斑点がいくつも浮かんでいた。
「……なんだァ、これ」
斗和が慌てて袖を戻す。
「見ないで」
「隠すなァ」
「平気だから」
「平気な奴の身体じゃねェだろォ!」
最近の斗和には、いくつもの異変が出ていた。
傷の治り方が以前とは明らかに違う。
浅い傷なら異様なほど早く塞がる一方、深い傷を負うと一時的に出血が止まりにくくなる。
毒を飲んだ直後には、心臓が妙に速く脈打ち、視界が霞む。
それでも数分後には、何事もなかったように動けてしまう。
そして――血の匂い。
以前とは違う。
藤の花に似た、微かな甘い匂いが混じっている。
「……お前の血、変な匂いがする」
実弥が呟いた。
斗和の表情が固まる。
「……気のせいだよ」
「またそれかァ」
実弥は睨みつける。
「テメェ、一体自分の身体を何に変えちまったんだァ?」
斗和は答えない。
ただ酒瓶を握り締める。
「……知らないほうがいいよ」
「俺が決める」
「実弥には関係ない」
「関係あるっつってんだろォ!」
怒鳴られても、斗和は酒を手放さなかった。
その身体はもう、長年の毒に適応し始めていた。
そしてその血は――いつしか、鬼にとっても普通の人間とは違うものへ変わりつつあった。