第2章 誰も知らない秘密
数日後の任務。
斗和と実弥は、長らく行方不明になっていた同期の捜索に出ていた。
森の奥から、異様な気配が漂う。
「……いた」
月明かりの下に立っていたのは、かつて共に鍛錬した同期だった。
だが、その瞳は赤く濁り、口元からは血が滴っている。
「……斗和」
「…………」
一瞬だけ、斗和の目が揺れた。
「お前……鬼になったのか」
同期は自嘲するように笑った。
「そうみたいだな。もう戻れねぇ」
爪を構えながら、同期は斗和を睨む。
「俺が人間だった頃のことも……全部覚えてる」
「……そう」
「だからこそ――」
同期は刀を抜いた斗和を見て、苦しげに笑った。
「やるなら、やれよ!」
その瞬間。
「酒の呼吸――」
迷いはなかった。
「壱ノ型」
一閃。
同期の首が、あまりにもあっさりと宙を舞った。
「……え」
身体が崩れ、鬼の肉体が灰へ変わっていく。
斗和は刀を振り払い、静かに鞘へ納めた。
実弥が目を見開く。
「……斗和」
「何?」
「……随分、あっさり斬ったなァ」
斗和は灰になっていく同期を見つめた。
「本人が『やれ』って言ったから」
「それだけかァ?」
「それだけだよ」
声には震えひとつない。
けれど、握った拳だけが微かに震えていた。
「……鬼になった時点で、もう私が知ってる同期じゃない」
実弥は何も言えなかった。
斗和は背を向ける。
「それに――」
ほんの一瞬だけ、声が掠れた。
「最後くらい、望み通りにしてあげたかったんだよ」
その言葉を最後に、斗和は歩き出した。
実弥はその背中を見つめる。
冷たいように見えて、その実、誰よりも深く抱え込んでいる。
そして斗和の腰に下がった酒瓶が、小さく揺れた。
実弥には分かっていた。
今夜、斗和はきっとまた――藤の毒入りの酒を飲む。
その痛みごと、誰にも見せないために。