第2章 誰も知らない秘密
「……分かった」
そう言ったはずだった。
けれど、数日後。
夜更けの縁側で、斗和はまた酒瓶を傾けていた。
「……一口だけ」
口に含んだ瞬間、藤の苦味が舌に広がる。
それでも斗和眉ひとつ動かさず飲み込んだ。
「……やっぱり、これじゃないと落ち着かない」
その時。
「――斗和」
「……!」
振り返ると、実弥が立っていた。
「テメェ……まだ飲んでやがるのかァ」
「……うん」
「やめろ」
「無理」
即答だった。
実弥の眉間に皺が寄る。
「身体が壊れてんのが分かってんだろォ!」
「分かってる」
「じゃあ何でだァ!」
斗和は酒瓶を握り締める。
「これを飲まないと、怖いんだよ」
「……何がだァ」
「鬼に襲われた時、血が効かなかったら。誰かを守れなかったら。私がもう少し強ければ助けられた人がいたかもしれないって……そう考えるのが怖い」
実弥は言葉を失った。
斗和は笑ってみせる。
「だから飲む。身体が痛くても、手が震えても、吐いても……これで誰かを助けられるなら」
「馬鹿が……」
実弥が酒瓶を取り上げようとする。
しかし斗和は離さない。
「これだけは、やめられない」
「……テメェ」
「実弥が心配してくれてるのは分かってる。でも――」
斗和は瓶を胸元へ抱き寄せる。
「この毒まで捨てたら、今まで死んでいった人たちに申し訳ない気がするんだ」
実弥は拳を握り締めた。
止めたい。
取り上げたい。
それでも、斗和の目に宿る覚悟を見れば、無理やり奪うこともできなかった。
「……せめて俺の前で飲め」
「え?」
「一人で飲むな。倒れた時、誰もいねぇなんてのは絶対に許さねぇ」
斗和は少し驚いたあと、困ったように笑った。
「……過保護だねぇ」
「うるせェ」
実弥は斗和の隣へ座る。
「テメェがやめられねぇなら、せめて俺が見張ってやる」
斗和は酒を一口飲む。
その横で、実弥は苦い顔をしたまま斗和を見つめていた。
――いつか、この酒を飲まなくても生きられるように。
そんな願いを、実弥は胸の奥で密かに抱いていた。