第9章 ついに……
「――ッ!」
斗和は闇の中へ引きずり込まれ、無限城の床へ叩きつけられた。
「痛ッ……!」
咄嗟に刀へ手を伸ばす。
だが、手首には黒い触手が絡みつき、身動きを封じていた。
「……何なんだよ、これ……!」
その瞬間、暗闇の奥から声が響く。
「その血……実に厄介だな」
「――!」
斗和の顔から血の気が引く。
ゆっくりと姿を現したのは――鬼舞辻無惨。
「……無惨……!」
無惨は斗和を冷たい目で見下ろした。
「鬼を蝕む血。藤の毒を長年にわたって取り込み、自らの血そのものを変質させたか」
「だったら何だってんだ……!」
斗和は睨み返す。
「私をどうするつもり?」
「決まっている」
無惨の指先から伸びた触手が、斗和の身体をさらに拘束する。
「お前を戦場から排除する」
「……!」
「お前の血は、私にとって看過できぬ危険だ。童磨だけではない。あの血が他の鬼にも流れれば、私の支配に影響を及ぼしかねん」
斗和は歯を食いしばる。
「だから……私を連れ去ったってわけ?」
「ああ」
無惨は淡々と答えた。
「殺すのは容易い。だが、お前の血には利用価値もある」
「ふざけんな……!」
斗和は刀を振るおうとする。
しかし触手が腕を締め上げる。
「ぐっ……!」
「無駄だ」
無惨が斗和の刀を蹴り飛ばす。
カラン、と乾いた音が響いた。
「お前をここへ連れて来た時点で、あの風柱たちから隔離することには成功した」
「……実弥……」
斗和の脳裏に、最後に見た実弥の顔が浮かぶ。
――今度は俺が、必ず見つけ出す。
「……絶対、来る」
斗和は震える身体で、それでも笑った。
「実弥は……私を見捨てない」
無惨の眉が僅かに動く。
「ならば――来るかどうか、試してみるとしよう」
触手が斗和をさらに奥へ引きずっていく。
「……実弥……!」
斗和の声だけが、無限城の闇へ消えていった。