第9章 ついに……
黒死牟の刃が、幾重にも分かれて迫る。
「玄弥ァッ!!」
実弥は迷わず弟の前へ飛び込んだ。
ザシュッ!!
月の刃が実弥の脇腹を深々と裂く。
「兄ちゃん!!」
玄弥の叫びが響く。
実弥は膝をつきながらも、玄弥を背中に庇った。
「……下がってろォ……!」
傷口から、血が大量に流れ落ちる。
黒死牟が次の一撃を構えた、その時だった。
「……む?」
黒死牟の動きが止まる。
実弥の血が、刃を伝ってその身体へ触れた。
瞬間――黒死牟の身体が僅かに揺らぐ。
「これは……」
顔をしかめ、口元を押さえる。
「……稀血、か」
「ハッ……今さら気づいたかァ」
実弥が血を吐きながら笑う。
黒死牟の視界が僅かに歪む。
強烈な血の匂いが鼻腔を満たし、身体の奥から酩酊にも似た感覚が広がっていく。
「……忌々しい……」
黒死牟の動きが明らかに鈍る。
その隙を見逃さなかった斗和が叫ぶ。
「……効いてる!」
「あァ……みてェだなァ……!」
だが、実弥の身体は限界に近かった。
斗和が駆け寄ろうとすると、実弥は片手を上げる。
「来るんじゃねェ……!」
「でも!」
「玄弥を頼む……!」
それでも斗和が一歩踏み出した瞬間、実弥が振り返る。
「……斗和」
いつもの荒々しい声ではなかった。
「俺ァ大丈夫だ。だから……そんな顔すんなァ」
血に濡れた顔で、それでも安心させるように笑う。
斗和は唇を噛み締めた。
「……絶対、大丈夫じゃないでしょ」
「うるせェ……。お前を泣かせるほど、ヤワじゃねェよ」
その言葉に、斗和の瞳が揺れる。
一方、黒死牟はなおも身体の異変に耐えていた。
「……この血……厄介な……」
実弥は刀を握り直す。
「だったら――もっと浴びやがれェ!」
血を滴らせながら、実弥は再び黒死牟へ斬り込んだ。