第8章 想い…②
玄弥が部屋を出ていったあと。
斗和としのぶは、再び向かい合っていた。
「……では、作戦会議をしましょうか」
しのぶが机の上に紙を広げる。
「童磨は私たちが想像する以上に厄介です。血鬼術は氷。吸い込めば肺を壊される可能性が高い」
「近づくこと自体が危険ってわけね」
「はい。そして何より――あの鬼は、女性を好んで食べる」
「そこは……あたしらには最悪の相性だね」
斗和が苦笑する。
しのぶは真剣な顔で頷いた。
「だからこそ、斗和さんの血を利用する案には意味があります」
「血に含まれた藤の毒……ね」
「ですが、問題があります」
しのぶが紙に線を引く。
「斗和さんの血だけでは、童磨を殺すには濃度が足りない可能性があります」
「なら、あたしの血をもっと濃くする?」
「駄目です」
即答だった。
「それ以上、毒を摂取すれば斗和さん自身の身体が持ちません」
「……やっぱり、しのぶちゃんは厳しいなぁ」
「当然です」
しのぶは微笑んだが、目は笑っていない。
「ですから、私の毒と斗和さんの血を組み合わせる」
「二種類の毒を同時に?」
「ええ。童磨がどちらか一方を無効化しようとしても、もう一方が作用する可能性があります」
斗和は腕を組んだ。
「それなら、あたしが前に出て血を浴びせる。しのぶちゃんは後ろから毒を仕込む」
「ですが、それでは斗和さんが食べられる可能性が高い」
「そこは――」
斗和がニヤリと笑う。
「食われる前提じゃなく、食わせる」
「……なるほど」
「童磨は、あたしを食えば勝てると思わせる。その隙に、しのぶちゃんが仕掛ける」
しのぶはしばらく黙って考えた。
「……危険ですが、可能性はあります」
「でしょ?」
「ただし、一つ条件があります」
「なに?」
「絶対に、一人で死ぬつもりにならないこと」
斗和は少しだけ目を細め――
「……約束する」
今度の言葉には、逃げるための笑いはなかった。