第8章 想い…②
「……玄弥」
斗和が小さく名前を呼ぶ。
「兄ちゃんは、斗和さんがいなくなったら……絶対、壊れます」
「……」
「昔からそうなんです。何でも一人で背負って、俺にも何も言わなくて……でも、斗和さんの前では少しだけ違う」
玄弥の声が震える。
「だから……勝手に死ぬなんて言わないでください」
斗和は俯いた。
「……勝手に、か」
握り締めていた酒瓶が、かすかに震える。
「ごめん。あたし……実弥なら、あたしがいなくても生きていけるって思ってた」
「そんなわけないでしょう!」
玄弥が叫ぶ。
「兄ちゃんが斗和さんをどれだけ――」
「玄弥」
しのぶが静かに制した。
「……斗和さん。あなたがしようとしていることは、命を賭けるだけではありません。残される人の心まで、置き去りにすることになります」
「……」
「それでも、童磨と戦う覚悟は変わりませんか?」
斗和はしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと酒瓶を置く。
「……変わらない」
「斗和さん……!」
「でも」
斗和は顔を上げた。
「一人で勝手に死ぬ覚悟は、もうしない」
玄弥が目を見開く。
「しのぶちゃん。あたしは、あんたの代わりになりたいんじゃない」
「……」
「一緒に生き残るために、どうするか考えたい」
その言葉に、しのぶは静かに目を伏せた。
「……はい」
玄弥も涙を拭う。
「絶対ですよ」
「うん」
「兄ちゃんにも……ちゃんと話してください」
「……それは」
斗和が苦笑する。
「一番難しい宿題だなぁ」
「そこから逃げないでください!」
「はいはい」
斗和は笑った。
けれど、その笑顔の奥には――初めて、自分の死を本気で恐れる色が滲んでいた。